大津の中学2年生の生徒が自殺した問題を機に関心が高まっている“いじめ”。過去にいじめによる自殺で娘を亡くした遺族はいま、何を思うのか。
14年前の夏、愛娘をいじめによる自殺で失った体験からNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」を立ち上げ、学校を中心に、いじめの不条理を伝える講演活動を行う小森美登里さんは、いまでも、「娘はいじめを訴えた学校に放置され、亡くなっていった」と、断言する。
当時15才の香澄さんは神奈川県下の高校に通う1年生だった。彼女へのいじめに加わったのは、クラスが一緒で同じ吹奏楽部に所属する女子3人だった。言葉によるいじめが始まると、じきに香澄さんは心身の不調に陥った。
小森さんは、学校を頼った。力になってもらえると信じて担任に相談したり、うつ状態になって心療内科にかかった結果も報告したが、しかし学校は動かず、いじめは放置される。娘の死後、「事実を知りたい」と小森さんは訴訟に踏みきった。ひとつかみの事実を手にするのは、高裁まで争った末のことだった。
「事件直後に学校は生徒に『作文』を書かせていました。学校が開示した調査書類のなかから、直接娘の香澄から相談を受けていたという友達の記述が出てきた。自殺を図る直前、彼女と携帯電話で話した内容が、詳細に書かれていたのです。でも学校は初めから私たちに、『残念ながらいじめにかかる記述は1か所もありませんでした』と嘘をついてきた。それが嘘と判明するのは、高裁での和解の後、娘が亡くなって9年もたってからです」(小森さん)
長く不毛な法廷闘争の成果をあえて上げるならば、学校という組織の常識を学んだことだ。
「いじめ自殺があったときは、保護者への説明を濁す裏で、実は学校も必死になって調査をしています。けれども、それは原因究明のためでなく、事情を知る生徒を特定して、口を封じるためのものなのです。聞き取りをして確認できた時点で、重大な事実は隠蔽されてしまいます」(小森さん)
子ども未来法律事務所の徳岡宏一朗弁護士は、被害者の親が、民事訴訟によって事実解明を試みるリスクをこう語る。
「原則では、被害を訴える側が、加害行為や因果関係などを実証しなければならない。子供を亡くしたうえに、親が実証責任まで負うのは過酷すぎます。生徒を自殺に追いやった場合は、学校と教育委員会がどのようないじめ調査を行うか文科省が定め、いじめが認められれば、自殺との因果関係も認めるというように、制度そのものを変えなければならないと思います」
※女性セブン2012年8月9日号