就業中はうつで仕事がろくにできないのに、会社を一歩出た途端に元気になる――今、こんな「新型うつ病」が職場で急増しているという。新型うつをめぐる会社側と社員の攻防がある。
機械メーカーの研究開発部に勤める50代の男性上司は、大学院卒の30代の男性部下Aに手を焼いていた。
「この仕事を今日中にやってくれと頼んでも、いつも『他にも仕事を抱えているからできません』とか『設計と数ミリずれているから今日中は無理です』と返ってくる。『こういう仕事は納期が大事。同時進行でいくつも案件を抱えるのが普通で、誰もがやっている』と諭しても、『できません』の一点張りでした」(上司)
やがてAは会社を休みがちになった。はじめは発熱や体調不良を理由にして1日休んでまた4~5日出勤するというパターンだったが、そのうち1日おきに休むようになった。
さすがにおかしいと感じた上司が電話を入れ、「体調管理も仕事のうちだ。きちんと栄養をとって風邪をひかぬようにしなさい」と諭した。
するとその電話から1週間ほど経ったある日、うつ病の診断書を持って現われた。「どうだと言わんばかりの勝ち誇った表情で、とてもうつ病には見えないんです。しかし、診断書がある以上、休職を認めざるをえない」(上司)
休職中も一応心配して連絡を取り続けたが、そのうち携帯に電話しても出なくなった。自宅に電話するとAの兄が出て「バイクでツーリングに出かけた」と言う。Bは休職中に大型バイクの免許を取っていたのだ。
「Aの兄に話を聞くと、彼もうつ病には懐疑的で、休職手当をもらいながら遊び歩いている弟を叱ったそうです。ところが、『兄貴は会社側の人間かよ。僕に合った仕事をさせない上司が悪いのに』『僕は被害者なんだから、休職手当をもらって当然。労働者としての権利を行使しているだけだ』と逆ギレして歯向かったそうです」(上司)
その後、Aはバイクで事故を起こして入院し、そのまま会社も退職した。兄の話では、Bはその後もしばらく仕事をせずに遊んでいたが、貯金が底をつくと「もう大丈夫、治った」と言って就職活動を始め、某シンクタンクに再就職したそうだ。
※SAPIO2012年8月1・8日号