大飯原発が再稼働したものの、まだ多くの原発が停止したままだ。しかし、原子力ムラは一向に困らない。なぜなら、原発が停止しても、新たに「除染」利権が誕生したからだ。ジャーナリストの伊藤博敏氏が指摘する。
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昨年9月、内閣府は日本原子力研究開発機構に「避難区域等における除染実証業務」を約119億円で丸投げした。同機構は、高速増殖炉もんじゅや青森県六ヶ所村における核融合の研究開発にあたる組織で、「原子力ムラ」の中核と言っていい。発注は、「除染作業に知識と経験がある」という理由からだが、結局、機構もゼネコンを中核とするJVに丸投げ。「除染実証業務」の3地区を受注したのは原子炉建屋などの実績順に、鹿島(24基)、大林(11基)、大成(10基)の3社JVだった。
こうしたモデル事業での実績をもとに、ゼネコンは環境省発注の警戒区域内などの除染や、指定された104か所の自治体発注の除染も、ほぼ独占的に受注し、“談合”で割り振ることが多い。
言うまでもないことだが、談合は犯罪である。地検特捜部などが長い歳月をかけて摘発し、ようやく談合組織を壊滅に追い込んだ経緯がある。それが、大震災を機に復活したのだ。実は検察も、「いつまでも非常時ではない!」と、 今年3月頃から摘発を視野に入れた内偵に入っていた。
そうした捜査当局の意図を察知したかのように、復興庁と国土交通省は、被災地の復興工事でコンストラクション・マネジメント(CM)方式と呼ばれる新たな発注方式の導入を決め、7月から宮城県で始めることになった。
これまで自治体が、公共工事を調査・設計、工事施工などに分けて発注していたものを、「コンストラクション・マネージャー(CMR)」という建設管理業者に丸投げ。そこが各業者に発注する。「官」がCMRに想定しているのはゼネコン。要はゼネコンへの丸投げであり、現在の「官製談合」の違法を、合法に変えるシステムだ。
こうして東北では、莫大な除染・復興予算を、ゼネコン、サブコン、土建業者などが、分け合う体制が確立した。
東北は、不況の続く日本の起爆剤。そのあふれる予算に期待し、蠢き始めた有象無象は少なくない。暴力団もしかり。暴力団系手配業者が原発に作業員を送り込んでいるのは周知の事実だったが、被災して事業を投げ出した土建業者の組合員資格を買い取った暴力団系業者が、談合でやすやすと工事を受注。また、彼らは満員盛況の「除染講習会」に潜り込み、資格を取って除染作業に入り込んでいる。
憂慮した環境省は、今年3月、福島県警と合同で、除染やがれき処理から暴力団を排除する対策協議会を立ち上げた。彼らの確実な“侵食”を物語るのは、5月に福島第二原発が立地する楢葉町の渡辺征・商工会長が銃刀法違反で逮捕されたことだろう。
渡辺被告は、商工会長ほか建設業協会会長、漁業協同組合組合長などを務める町の“顔役”だったが、除染・復興利権を手にするようになって、カネ回りが良くなった。1000万円台の車を購入、羽振りがよくなった渡辺被告に群がる海千山千が多くなり、そうした渡辺被告に拳銃を手渡した組織があり、同時に被告の「独占」を快く思わない勢力によって、警察に「刺された」ということのようだ。
※SAPIO2012年8月1・8日号