喪章をつけてプレーする青森山田ナインの姿に、球場は万雷の拍手に包まれた。
夏の甲子園予選・青森大会3回戦(7月17日)。延長10回の末、青森山田は昨年夏の全国大会準優勝の強豪・光星学院に6対8で惜敗したが、青森山田の花田惇校長はこう語った。
「今日の土俵に立たせてもらったことに感謝したい。そして、ここまで戦った選手たちを褒めてやりたい」
昨年12月、1年生の久納将貴君(当時16歳)が野球部の寮内で焼肉をしていたことを理由に上級生に暴行され、急死。この問題を受けて同校は今年4月まで練習を自粛していた。今大会への出場辞退も取り沙汰されていた中での大善戦――マスコミはそう美談調に報じたが、将貴君の父・裕輔さんの怒りは収まらない。
「事件を過去のものにしようとしている。学校の対応に納得がいきません。夏の大会に出場すると知ったのも裁判所でのことでしたから――」
裕輔さんは、同校と暴行した元部員(暴行容疑で書類送検、その後自主退学)を相手取り、損害賠償を求めた訴訟を大阪地裁で起こしている。
学校理事長からの手紙を渡されたのは初公判(6月25日)の開廷直前。そこには公式戦への出場自粛をやめることが綴られていた。口答での説明は一切ない。
「最初は学校を恨みたくはなかった。でもあの日何が起きたかを調べると矛盾ばかりなんです」(裕輔さん)
死因は特定されていないが、裕輔さんは、息子は暴行で全身に血液を送り出せなくなり心停止したと主張する。暴行に対して学校側は「背中を一回叩いた」だけと説明してきた。
疑問を抱いた裕輔さんは、今年1月、元部員本人に直接聞き取りを行なった。それをまとめた文書には〈右足で(中略)前蹴り、後ろの机の辺りに(2メートル位)飛んで(中略)左手で右肩甲骨下をグーで殴り(中略)廊下の壁に押しつけた〉とある。そして元部員が部屋に戻ると、〈ドア越しに将貴の「ううっ」うめき声が聞こえた〉。
「将貴が倒れた後、なぜ学校はすぐに救急車を呼ばなかったのか。呼ばれたのは接骨院の専属トレーナーで、適切な処置がなされなかった。その後、駆け付けた救急救命士は『ものを喉に詰まらせた』という説明を受け気道確保をした。暴行による心停止とわかっていたら心臓蘇生措置を優先させていたはず」(同)
当初は暴行を隠蔽しようとしたのではないか、と裕輔さんは不信を募らせる。
「一体どれだけ息子はほったらかしにされていたのか。それを明らかにしないまま学校は野球部の活動を再開させた。人の命が失われたのになぜこうも鈍感なのか」
本誌が学校側に問い合わせると、「説明は不十分だったと思う。ただし、現在係争中なので代理人を通さねばならず、どう連絡をとればいいのかわからなかった。(対策を)模索中です」との回答が寄せられた。
「人一倍気遣いのできる子だったんです……」
愛息を突然失った裕輔さんの悲しみは重く深い。
※週刊ポスト2012年8月10日号