うつ病で会社の仕事はできないのに、カメラマンのバイトをしている。うつ病で休職中に大型バイク免許を取得してツーリングに出かける――このようなケースが近年、多発し、会社側を困惑させている。
彼らのように、「辛くて会社には出社できないが、趣味や旅行などには元気に出かけられる」という症例は、「新型うつ病」と呼ばれ、メディアでもたびたび報じられている。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2010年9月~10月に実施した調査「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」によると、56.7%の事業所が「メンタルヘルスに問題を抱えた正社員がいる」と回答し、その内の3割強(31.7%)が「3年前に比べて人数が増えた」としている。1000人以上の大企業では、不調者のいる割合が72.6%で、いない事業所を大きく上回ったという。その中には従来のうつ病だけでなく、新型うつ病も多く含まれていると推測される。
従来型うつ病の場合、几帳面で仕事熱心な人がかかりやすく、自らを責める「自責的」な傾向があり、すべての意欲を失い、ベッドから起き上がることもできなくなったりする。一方、新型うつ病の場合は、会社で不平不満を口にする者に多く、「会社や上司が悪い」と他者を責める「他罰的」な傾向があり、職場以外の場所では活動的だ。
ただし、この「新型うつ病」という名称はマスコミによる造語で、正式な医学用語ではない。日本うつ病学会のホームページには「『新型うつ病』という専門用語はありません。むろん精神医学的に厳密な定義はなく、そもそもその概念すら学術誌や学会などで検討されたものではありません」とある。『「新型うつ病」のデタラメ』(新潮新書)の著者で、精神科医の中嶋聡氏は言う。
「新型うつ病は2000年頃から急増しています。従来型うつ病との関係のなかでどう扱うかが今、大きな問題になっています。DSMという診断マニュアルでは多くがうつ病に当てはまってしまうのですが、臨床像があまりにも違うので、精神科医の間でも本当にうつ病なのか意見が分かれ、従来型とは区別すべきと考える人も少なくありません」
新型うつ病もしばしばうつ病の一種として扱われているのが現状だが、うつ病で休んでいる社員が休職手当をもらいながら遊び歩いているとなれば、仕事を肩代わりしている職場の同僚らのモチベーションも下がる。本人が「会社や上司が悪い」という態度を示せばなおさらだ。
今や新型うつ病は、企業の人事部や労務管理の担当者にとって悩みの種で、社会問題になっていると言っても過言ではない。
※SAPIO2012年8月1・8日号