佳境を迎えつつあるロンドン五輪。選手たちの雄姿とともに、熱い声援を送る家族や同僚、応援団・ファンたちの様子が連日、テレビに映し出され、オリンピックならではの祝祭ムードを感じさせる。近年ブームのスポーツバーもさぞかしホクホクと思いきや、実はそうでもないようだ。
普段からサッカーを中心にスポーツ放映を行なっており、五輪中はサッカー以外の競技も放送している都内の飲食店経営者が言う。
「オリンピック中は正直、厳しいです。サッカー以外は、お客さんは入らないですね。ロンドンなので時差の影響も大きいと思うけど、じゃあ北京のときに賑わったかと言われれば、やっぱりそうではない。家でくつろぎながら、ゆっくり見たい人が多いんじゃないですか。スポーツバーに限らず、飲食店はどこも厳しいと思いますよ」
男女ともに好調なサッカーの試合日は満員になるようだ。それでも、観戦に夢中になってしまうとファンは酒をあまり注文しないため「定額制」などのシステムをとることが多いという。
「サッカー観戦という点でいえば、オリンピックよりW杯のほうがお客さんは入ります。やっぱりA代表のほうが人気ありますから。それでもサッカーは、海外へ出ていく選手が増えて、バーでビールを飲みながら皆で観戦するというスタイルが定着しつつある。一方、他の競技は、なかなかね。関塚ジャパンとなでしこが頼みの綱です(笑い)」(前出・飲食店経営者)
『映画に学ぶスポーツ社会学』の著書があり、スポーツ社会学が専門の関西大学・杉本厚夫教授に、スポーツバーが盛り上がらない理由について聞いた。
「スポーツバーに集まる人には、皆と一緒に応援したいという“集合行動”欲求があります。それを満たすには、応援パフォーマンスがある程度、固まっている必要がある。サッカーや野球にはそれがあるけれど、柔道や水泳にはない。日本人が強くても、どう応援してよいかわからなければ一体感は得られず、スポーツバーに集まる目的が達成されないのです」
さらに、ロンドン五輪ならではの特性もあるという。
「今回からネット中継が始まりました。地上波とBSで放送しない種目が対象ですが、ネット放送を見ながらツイッターで呟く。あるいはテレビを見ながらでも、SNSで交流する――ネットにはテレビ解説にはない本音が広がる世界があり、リアルの世界で集まって見るのとほぼ同様の興奮が得られます。スポーツバーに集まるのはもともと若者が多いですから、彼らがネットやSNSを使った観戦に流れている可能性もありますね」
実際、ロンドン五輪はSNSが普及してから初の五輪とあって、欧米メディアは「ソーシャリンピックス(Socialympics)」と名付けている。杉本教授が指摘するもう一点。
「日本人の目が肥えてきたことも挙げられます。W杯の常連になり、WBCで優勝するなど、日本のスポーツレベルが上がるにつれて、ファンも成熟しつつある。ファンは、良いパフォーマンスが見たいのであって、オリンピックだからとただ愛国心で盛り上がるわけではない。五輪というイベントの特別感が相対的に下がっているのは確か。でもそれは、スポーツの価値が醸成されていることの証でもあるのです」