オレンジ色をバックに「チカラめし」という黒い文字が躍る派手な大看板。街で最近よく見かけるなぁと思った人も多いだろう。牛丼業界に殴り込みをかけ、いまや「業界の台風の目」となっているのが、『東京チカラめし』である。
昨年6月に池袋第1号店をオープンして以来、首都圏を中心に、90店舗(7月24日現在)にまで勢力を拡大。毎月平均して約7店もの新店舗をオープンさせている計算だ。
白を基調とした明るい店内――『東京チカラめし』の主力商品は、網で焼いた牛肉を香ばしいタレで味付けし、ご飯の上にのせる「焼き牛丼」(290円。一部店舗を除く)だ。「牛丼」といえば、いわゆる牛丼御三家(『すき家』、『吉野家』、『松屋』)のような牛肉を鍋で煮るものがほとんどだったが、「焼く」ことで差別化を図った。
この発想が、ガッツリ食べたい学生や若いサラリーマンのニーズに合致した。
「焼き肉とタレがしみこんだご飯という、“鉄板”の組み合わせは文句なしにおいしい。それに、牛丼のお供にアレを持ってきたことには驚かされました」(都内の30代サラリーマン男性)
それはカウンターにあった。薬味やドレッシング、個人で味を調節できる「辛味だれ」などが並ぶ横に、トングのついた小さな箱が備えられている。中には寿司につきものの甘酢のガリ。「牛丼には紅ショウガ」という“固定観念”を打ち破る新鮮味がある。
他のメニューも豊富で、カレーや鶏の唐揚げ、エビフライまである。焼き牛丼には「ちょこっとカレー」として少しだけカレーをつけることもできる。
同店を経営するのは、居酒屋チェーンで知られる三光マーケティングフーズ(本社・東京都豊島区)だ。
1975年に平林実社長が、東京・神田のガード下に出店した定食屋からスタートした。その後、個室式の居酒屋『東方見聞録』や低価格居酒屋『金の蔵Jr.』を展開し、グループで200億円を稼ぐまでに成長。満を持して牛丼業界へ乗り込んできた。
「後発では同じ土俵で戦えないというのが平林の考え。焼き肉を使った味とボリュームで勝負しています」(広報担当の大貫実氏)
急速な店舗展開には居酒屋チェーンのノウハウが活かされている。
「牛丼チェーンの常識は1駅1店舗でしたが、弊社は1駅に集中展開することもあります。例えば、新宿駅周辺には6店舗ある。これは『集中ドミナント』という、市場シェアを高める居酒屋の出店方式です」(同前)
従来は、吉野家が一杯なら松屋、そこもダメならすき家、というような顧客が多かった。それがこの方式なら、「1号店が満員なら2号店に行ってもらえるし、店員も応援に駆け付けられる」(同前)というわけだ。
※週刊ポスト2012年8月10日号