脱原発デモが行われるのは、毎週金曜日に恒例となっている首相官邸前ばかりではない。
7月16日には代々木公園で「さようなら原発10万人集会」が開かれた。在日米軍のオスプレイが搬入された山口県岩国市、全国各地の電力会社前などでもデモが開かれている。
原発事故を機に日本中に広がる新しいデモ。しかし、“お祭り感覚”には批判もある。ベトナム戦争を取材した経験のあるジャーナリストの徳岡孝夫さんがいう。
「みんなで仲良く官邸前でデモするのはいいけど、ニコニコと行進するだけで世の中は動かせません。日本人は1972年に青山通りで手をつないでベトナム戦争反対のデモをしましたが、その3年後にベトナム内戦で大量の死者が出た日、日本は休日でみんな遊んでいた。『ベトナムを思うと夜も眠れない』といっていた人たちがです。陽気なお祭り気分で世の中は変わりませんよ」
たしかに冷静に見回せば、「脱原発」を目指すときの課題は多い。
この夏も電力不足により、全国で最大10%の節電要請がなされている。発電コストの安い原発が動かないことにより、東電管内では家庭用で8%超の電気代値上げが予想される。デモの参加者たちに電力不足や値上げについて問えば、
「猛暑の今夏だって電力が足りているじゃないか」
「電力会社の数字のごまかしでしょう」という。
しかし、日本経済を見ると、原発の代わりに火力発電を増やすために、実際に天然ガスの輸入が激増している。これが主な原因となって、今年1~6月の貿易収支は計3兆円近い赤字で、比較可能な1979年以降最大の赤字となり、日本経済失速の大きな要因となっている。
作家の北尾トロさんは「今回のデモで再稼働がストップすることは難しいでしょう」と現実的に見ている。
「デモのなかにいると、自分が世界の中心で正しいことをしているように思えるけど、それは状況に酔っているだけ。実際の国民からすればごく一部の人数で、野球の二軍の試合を生観戦して、『いい試合なのになんで誰も見ないんだ』と憤るのと同じです」
実際、野田首相はこのデモについて「大きな音だね」と語っているのみだ。しかし、作家の落合恵子さんは未来に希望を託す。
「もうみんな怒っているんですよ。この声を止めることはできない。音ではなく、声なんです。まだ迷って声をあげられない人もたくさんいます。デモをきっかけに、そういう人たちがもっと声をあげるようになれば、状況は確実に変わると思います」
※女性セブン2012年8月16日号