牛丼業界が今、戦国時代に突入している。長く業界を牽引してきた『吉野家』『松屋』『すき家』の“御三家”に真っ向勝負を挑む、『東京チカラめし』『伝説のすた丼屋』などの新勢力が現れたからだ。
今、これほどまでに牛丼業界に変化が起きている理由は何だろうか。外食業界に詳しいジャーナリスト・中村芳平氏の話。
「吉野家が20年ぶりに社長を変えましたが、これが非常に象徴的な出来事でした。これまでのやり方では難しいということを、業界の代表格である吉野家が示したようにも思えます」
御三家の2012年3月期決算(吉野家ホールディングスは2月期)の数字を見ると、本業の儲けを示す営業利益は、『松屋』の松屋フーズが3.8%増(前期比。以下同)、『すき家』を展開するゼンショーは18.9%増だったのに対し、『吉野家』の吉野家ホールディングスはマイナス6.2%と“独り負け”だった。
「松屋やすき家は、激しい値下げ競争や牛丼以外のメニューで攻勢をかけた。しかし吉野家は、過去の倒産の経験から、値下げやメニュー増加による無理な業容拡大に慎重な立場を取り、昔ながらの牛丼にこだわり続けた。これが成長の鈍化に繋がったと見られている」(全国紙経済部記者)
そこに、牛丼を“焼く”という柔軟な発想を持った新勢力が現われた。
これまで牛丼を含めたファストフード業界はすでに飽和状態にあり、新規企業が参入できるパイはないといわれてきた。しかし、『東京チカラめし』を運営する三光マーケティングフーズ社長の平林実氏は、「パイは無いどころか可能性だらけだ」と語っている。
「居酒屋は日常の息抜きの場として時たま利用されるだけだが、ファストフードはいまや日常の一部であり、ガスや水道並みのインフラになっている。そう考えれば伸びしろはあるが、参入資本は少ない。特に牛丼は大手がたったの3社。そもそもこの30年にわたって新規参入がなかったというのが異常なんです。この業界には大きなチャンスが広がっている」(『実業界』2012年5月号より)
前出・中村氏が語る。
「三光マーケティングフーズは、均一料金の超低価格居酒屋でこの3年間に75億円の利益を挙げ、その儲けを牛丼業界へ注ぎ込もうとしている。この影響を受けそうなのが『吉野家』なんです。繁華街の一等地をメインに展開してきただけに、『東京チカラめし』とバッティングします。場合によっては、御三家の一角が崩れることもありうる」
※週刊ポスト2012年8月10日号