首相の靖国神社参拝は2006年の小泉純一郎首相以来、途絶えている。終戦記念日に参拝した閣僚の数も、昨年、一昨年とゼロが続いた。 ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、「中国・韓国からの内政干渉を過度に意識し、自国の戦争犠牲者への追悼を疎かにするのでは宰相としての資格はない」と指摘する。以下、櫻井氏からの提言だ。
* * *
野田佳彦首相に私はこう申し上げたい。
「8月15日の終戦記念日に、靖国神社に参拝なさい」
靖国神社は故・江藤淳氏のいう「死者の魂と生者の魂との行き交い」という日本人独特の生死観にもとづいて生まれ、日本の歴史に沿ってその歩みを重ねてきました。国家、国民のために殉じた幾百万の尊い英霊が祀られている靖国神社を参拝することは、日本の首相にとって極めて当然の責務です。
同時に靖国参拝こそが唯一、野田政権の維持を可能にし、展望を切り開く鍵になるはずです。
小沢一郎氏ら衆参合わせて49人が民主党を離党し、その後もボロボロと櫛の歯が欠けるように離党者が相次いでいます。しかし、もともと考え方が根本的に違う人たちが同じ党に寄り合っていたことがおかしかった。考えの異なる議員が抜けていくことをむしろ、前向きにとられる局面です。首相は離党者の数など気にせず、自らと志を同じくする人たちの力をいかに結集し、強めていくかを考えていくべきです。
振り返れば野田氏は2005年、小泉内閣に提出した質問趣意書のなかで、いわゆる「戦犯」について「関係国の同意のもと赦免・釈放され、あるいは死刑が執行されている。刑が終了した時点で罪は消滅するのが近代法の理念である」とし、サンフランシスコ講和条約や戦後の国会決議などを挙げて「戦犯の名誉は法的に回復されている。すなわち『A級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」と問いかけました。
この言葉通り、日本の国会は1953年に、社会党も共産党も含めて全会一致で“A級戦犯も含むすべての戦死者”を国に殉じた戦没者として認め、その遺族には等しく扶助料、恩給を支給することを決定しました。この国会決議は連合国によって“戦犯”の烙印を押された人々を、日本人はもはや罪人とは考えないと決定したことを意味します。
日本のこうした決定に反対を表明した国はひとつもありませんでした。つまり、国内、国際社会の双方で、いわゆるA級戦犯は完全に名誉回復がなされているのです。また、国際法上、講和条約自体が戦争にまつわるすべての罪を許す意味をもちますから、野党時代の野田氏の主張はきわめてまっとうなものでした。
ところが首相就任後の昨年9月14日の衆議院本会議の代表質問で、野田首相は、「国に殉じた方々に感謝や敬意を表するのは当然だが、総合的に考慮すると、首相や閣僚の公式参拝は差し控えなければならない」と答弁し、過去の発言については法的解釈について述べたものだとしました。
これはおそらく首相の本意ではなく、党内融和を優先するための方便だったのでしょう。しかし、今、首相が置かれている状況は当時と違います。党内で足を引っ張ってきた勢力が抜けた今こそ、信念を形にしてほしいと思います。
※週刊ポスト2012年8月17・24日号