甲子園は野球少年の夢舞台である。その夢を実現するための手段として、いまや切っても切り離せないのが「野球留学」。特に「関西」は、優秀な選手が全国に散っていくことで知られる。甲子園で取材を続けるノンフィクション・ライターの神田憲行氏がレポートする。
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高校野球が盛り上がると、いつもネットで話題になるのが野球留学組の存在だ。とくに関西出身者が多く、「大阪第二代表」などと口さがない呼ばれ方もする。しかしとくに関西だけが野球が強いというわけでもないし、関東にも好選手は多いはず。なぜ野球留学に関西人が多いのか考えてみた。
今大会49代表のベンチ入りメンバー(1チーム18人、全体で882人)のうち、関西人(大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山)の数は193人いた。およそスタメンのうち2人が関西人という勘定になる。在籍している高校の「北限」が光星学院(青森)、「南限」が神村学園(鹿児島)、ほぼ全域に渡って分布している。
野球留学した関西出身者に理由を尋ねると、「中学のチーム関係者に勧められた」と選手が多い。中学で硬式野球をする「ボーイズ・リーグ」(関東では「シニア」)などがあり、まず送り出す側が熱心なのだ。かつて東北地方の私立野球校の監督をしていた人物は、
「毎年暮れになると、大阪のボーイズのチームから選手が月替わりで写真紹介されたカレンダーが送られてきた。選手カタログみたいだった」
という。ボーイズのそのチームに所属すると、遠隔地の野球校を紹介してもらえる→甲子園に出て野球で進学・就職もしやすくなる→それを目当てにボーイズに選手が集まる、という構図だ。選手が挙げた理由は他にも「レギュラーでなくても練習させてくれる」「甲子園に出るためには厳しい寮生活も必要だと思った」などがあった。
受け入れる側はどうか。
「いろんな地域出身者と混じり合うことが、地元青森の生徒にも良い刺激になる。社会に出るためにも必要なことだと思う」(ベンチ入りメンバーが8府県にまたがる光星学院・小坂貫志部長)
「私自身もそうでしたが、15歳で親元を離れて寮生活で野球をする生徒は覚悟が違います」(ベンチ入りメンバーが全員他府県出身者の島根・立正大淞南の太田充監督)
かつて関西出身者を多く受け入れてきた酒田南(山形)の鈴木剛部長は、
「やっぱり関西の子は打たれ強い。野球もたくさん見て来ているのでよく知っている」
関西人と野球をしている地元の選手は「いつの間にか関西弁がうつってる」「走塁がこすい(ズルイ)。関西であんな野球をしていたのかと驚いた」と感想を言う。これは私も取材経験がある。関東から野球留学した選手は地元の方言を話すが、関西から行くとチームが関西弁になる。またバントしてゴロが弱くて捕手が前に出てきそうになると、打者走者がわざとスタートを遅らせて前に出ようとする捕手をブロックするなど、関西野球にはサッカーでいう「マリーシア(ずる賢さ)」がある。
ベンチ入りメンバー全員が県外出身者で、部員81人中県内出身者は2人という香川西の福井聡部長はこういう。
「メンバーは学校とグラウンドの行き帰りに市民の方から声をかけてもらったり、近所のスーパーでも顔と名前を覚えてもらってる。県外から来た子なんですが、(学校のある)三豊の子なんです」
野球留学は、そんなに非難されることなのだろうか。