経営不振に歯止めがかからず、「このままでは提携先の台湾・鴻海精密工業に呑み込まれるのも時間の問題」(経済誌記者)と喧しく報じられているシャープ。9月中には銀行融資の拡大も視野に入れ、次々と身を削るリストラを断行するもようだ。
2500億円という巨額赤字(2013年3月期見通し)の元凶は、主力のテレビや液晶パネル事業の業績悪化だが、改めて家庭内を見渡してみると、あらゆるシャープ製品で“お世話”になっていることに気付く人も多いはず。
「我が家のテレビは『世界の亀山モデル』のステッカーが貼ってある大画面の『AQUOS』ですし、空気清浄機はブドウのマークの『プラズマクラスター』、そういえば、電子レンジも“水で焼く”のキャッチコピーに惹かれて妻が買ったシャープの『ヘルシオ』でした」(40代会社員)
こうした声を聞くと、いまのシャープの苦境がにわかには信じがたい。家電ジャーナリストの安蔵靖志氏もシャープ製品の高いブランド力は評価している。
「『AQUOS』は海外メーカーを含めた低価格競争に敗れて頭打ちですが、ブランド認知度は健在ですし、空調機器や後発の電子レンジもトップシェアを堅持しています。最近では会話ができるお掃除ロボット(COCOROBO)や洗米までしてくれる炊飯器(ヘルシオ炊飯器)を出すなど、付加価値の高い製品を次々と出しています」(安蔵氏)
シャープにとっても、生活に密接する白物家電は売り上げこそ小さいが、大事な収益源として「最後まで鴻海に主導権を渡さない覚悟」(前出・経済誌記者)だという。
とはいえ、三洋電機の洗濯機・冷蔵庫事業が中国のハイアールに買収された前例があるだけに、目に見える形で実績を上げなければ事業売却も完全に否定しきれない。
家電量販店に詳しい流通アナリストはいう。
「今年の年末商戦がヤマでしょうね。素早く効率的に利益を上げるためには、量販店に大量に製品を卸して売れた分だけ報奨金を出す“薄利多売方式”を強化する可能性はあります。量販店は報奨金が入る分、値引きができるので消費者にとっては喜ばしいことですが……」
しかし、前出の安蔵氏は違った見方をする。
「シャープはこれまでも散々と値引き競争をして自ら首を絞めた苦い経験があるだけに、単価を上げてマージンを稼ぐ方向に舵を切ると思います。かといって、割高感を抱かせるわけではなく、他社に真似のできない付加価値を提案してくるでしょう。今後どんな独創的で利便性の高いシャープ製品が出てくるか、期待したいところです」
果たして、SHARPの冠とブランドをどこまで残すことができるのか。