今年7月より社内公用語を英語にした楽天グループ。いまでは役員会議、経営会議、毎週の全体朝会、社内資料……すべてに英語しか使われないというから驚きだ。しかし、社員の中には、学校の授業や受験勉強以来まったく英語に触れる機会のなかった人も少なくなかったという。
経営塾(経済誌『月刊BOSS』発行)の会員制フォーラムに講師として招かれた楽天ナンバー2の國重惇史氏(楽天副社長、楽天銀行会長)が、共通言語化への苦難の道のりと社内の“動揺ぶり”を赤裸々に明かした。
「三木谷(浩史氏・楽天会長兼社長)が英語化をぶち上げたのは、いまから2年半前。でも、2010年12月時点でTOEICの社員平均は526.2点(990点満点中)と散々な結果でした。いちばん危機感を抱いていたのは800点以上が課せられていた役員です。現常務執行役員の中島(謙一郎氏)も500点ぐらいの英語力しかありませんでしたからね。その後、彼は死ぬ気で勉強して見事800点をクリア。いまでは何事もなかったように、英語を駆使していますが(笑い)」(國重氏、以下同)
楽天では、社員を役職ごとに4つのランクに分け、いちばん下の社員でもTOEICスコアで650点以上が求められた。達成できなかった社員は目標点数との開きによってゾーン区分けされ、200点以上ノルマに足りなかった社員は「レッドゾーン」に位置付けられて減給も余儀なくされる。
「社員はみんな飲みにも行かず、ゴールデンウィークに旅行にも出ずに必死で英語を勉強していましたよ。英会話学校に通ったり、無料電話の『スカイプ』を使ってカワイイ外国人女性から英語を学んだり……。一時は本社のある品川界隈の英会話学校は楽天社員ばかりいると噂にもなったほどです(笑い)」
そんな努力も報われ、今年7月の社員平均は700.3点と、実に170点以上もアップ。レッドゾーンで苦しむ社員も全体の5%にとどまっている。
しかし、安心したのも束の間だったという。
「先日、三木谷が『2~3年後には社員全員800点まで取れるようにしよう』と言い出したんです。おまけに話す力も身につけるために『versant』(英語コミュニケーション力測定テスト)も受けさせたいと。社員の中には『せっかく飲みに行けると思ったのに、また夜は当分お預けか……』と肩を落とす人もいます」
英語の習得ばかりに気を取られ、日常業務に支障が出るのでは? と余計な心配をしたくなるが、國重氏はそれも正直に認めている。
「実際、公用語化を実施した7月までの3か月間は、ラストスパートとばかりに部長やマネジャーといった幹部は本社4階にある空きスペースで猛烈に詰め込み勉強をしていました。その間ははっきり言って、かなり業務に影響が出ましたね」
また、ここまでハードルが高くなると、仕事はできても英語がイヤで会社を辞めてしまう社員が続出しないのだろうか。
「かつてハーバード大学の教授が公用語化に対する楽天社員のヒアリング調査をしたところ、かなりの社員が『もう辞めたい』と話したそうですよ(笑い)。それでも一斉に辞めなかったのは、ひとえに三木谷オーナーの強いリーダーシップがあるからだと思います」
三木谷氏が描く真のグローバル人材になるためには、並大抵の努力では適わない。