巷では、しなびた野菜もたちまち鮮度を取り戻す「50℃洗い」が話題を集め、6月に発売された『50℃洗い』は14万部のベストセラーとなっている。そんな中、今度は、人のカラダは42℃のお湯に浸かると若返る、とする研究成果が発表され、注目を集めている。
慶応大、熊本大、名古屋大、再春館製薬所などの共同研究チームは8月7日、マウス実験で「42℃の湯に5分間浸けると紫外線によるシワを予防できた」という研究結果を発表した。その成果は9月にイタリアで開催される欧州研究皮膚科学会でも発表されるという。研究責任者で、慶応大薬学部の水島徹教授が解説する。
「マウスの実験で皮膚を42℃の湯に5分間浸けると、体内の細胞内にある熱ショックタンパク質(HSP)が増えることがわかりました。マウスを37℃、あるいは42℃のお湯に浸けた後に紫外線を当てるという実験を10週間続けた結果、37℃で5分間浸けたマウスのグループにはシワがくっきりとできたが、42℃のお湯に浸けたマウスのグループではシワがほぼできませんでした」
熱ショックタンパク質(HSP)とは、熱などのストレスを受けると細胞の中で作られるタンパク質のことで、ストレスで受けた細胞の傷を修復する役割を担う。
また、顔などにできるシワは、肌の弾力を保つクッションの役割を果たしているタンパク質のコラーゲン層が傷ついて薄くなることで発生する。このコラーゲン層を傷つけてシワを作る原因の7~8割は紫外線だと考えられているのだ。
では、なぜ42℃なのだろうか。日本人の一般家庭のお風呂の設定温度は40~42℃といわれているが、少しアツめの温度といったところか。前出・水島教授は、こう説明する。
「私も自宅の風呂で“人体実験”しましたが、確かに42℃はちょっと熱い(笑い)。でもはいれないことはないんです。41℃じゃダメかというと、そんなことはなくHSPは増えますが、42℃が一番よく増え、かつ熱が悪さをしないと。それ以上の温度だと皮膚に炎症を起こす場合もありますし、そもそも湯船にゆっくり浸かるなんてできませんから……」
前出の平山氏によると、野菜の「50℃洗い」は熱ショックで葉の表面が開き、失われた水分が瞬時に吸収されてシャキッとするという仕組みだというが、人のカラダの「42℃洗い」との共通性はあるのだろうか。
「結論はまだ出ていませんが確かに『50℃洗い』とメカニズムが似ているという研究者もいます。マウスと人は皮膚やHSPの構造はほとんど同じですから、人体でも『42℃洗い』でシミやシワを予防できる可能性は大いにあると思っています」(前出・水島教授)
驚くのはまだ早い。水島教授によると、「42℃洗い」の効果は美肌効果など“若返り”に留まらず、他にも、胃潰瘍やアルツハイマー病などにもHSPが効果的な役割を果たしていることがわかってきたというのだ。
「1980年代から広く使われている製薬会社の胃薬が、実はHSPを増やして胃潰瘍を防いでいるということが後からわかりました。
また、アルツハイマー病についてのマウスの実験では、HSPが病気の原因タンパク質であるβアミロイドの変性・凝集を抑制して脳の老人斑(アルツハイマー病の脳に見られる構造物)を抑え、記憶学習能力の改善が見られました。HSPを増やす胃薬をマウスに飲ませると、老人斑の減少や記憶能力も改善されることが発見されたのです。
ヒトが持っている自己回復力を高めるタイプの医薬品が求められつつある中で、画期的な発見だと考えています」
※週刊ポスト2012年9月7日号