深刻さを増すシャープの経営危機。グループの社員5万7000人を待ち受けるのは、給与削減か、リストラか、台湾企業による苛烈な支配か、それとも倒産か――。長引く不況と円高から抜け出せない日本経済にあっては、あらゆるサラリーマンにとって無縁の話ではない。
縮小が発表された栃木工場に勤務する30代後半のAさんは深い溜め息をついた。
「地元ではシャープに入れば一生安泰だといわれてきた。描いていた人生設計が完全に狂ってしまいました。
工場では約1600人の従業員のうち、AV事業に携わる1500人から希望退職者を募ると聞いています。地元で採用された人間全員がリストラ対象ということらしい。子供はまだ小学生でこれからもっと教育費がかかる。この田舎に再就職先なんてないのに、どうしたらいいのか……」
パナソニック、ソニー、NECなど多くの電機メーカーが何年も前から大規模なリストラを断行していたのを横目に、「勝ち組メーカー」シャープは我が世の春を謳歌していた。
液晶パネル、携帯電話端末、太陽電池の3つの主力事業が絶好調だった2007年度、売上高は3兆円を超えた。社員の平均年収は700万円超で、福利厚生も充実――ところが、今年に入って急転直下、極寒の冬に突入する。
シャープは8月28日、グループで2000人の希望退職者を募集することを発表した。今年度中にグループ合計5万7000人の社員のなかから5000人を削減する計画だ。
理由は先に挙げた主力3事業の失速である。特に液晶テレビ事業は韓国メーカーにシェアを奪われた。そこにリーマン・ショックや家電エコポイントの終了なども重なり、約4300億円をつぎ込んで2009年に稼働を始めた大阪・堺の世界最大の液晶パネル生産工場は稼働率3割程度に落ちこむ。在庫の山が積み上がり、業績はどん底まで落ちた。
大手銀行幹部がいう。
「5000人のリストラ、栃木工場(栃木・矢板市)や葛城工場(奈良・葛城市)の縮小などで財務改善するようだが、銀行団が継続的に融資するためにはまだ足りない。リストラは1万人規模にする必要があるし、中国やメキシコなどの海外工場の売却も早急に検討すべき。コピー機などの情報機器事業やエアコンなどの空調事業を切り売りすることも考えなくてはならない」
社員は数千万円の住宅を購入し、子供を私立学校に入れているケースも多い。老後は豊かな年金で、妻と旅行三昧という悠々自適な生活を描いていた人もいるだろう。そんな将来設計はもろくも崩れ去った。
※週刊ポスト2012年9月14日号