共産党による独裁のもと、経済成長を推し進め、極限にまで肥大化した中国に大きな病巣が広がっている。これまで輸出と投資を中心に経済発展してきたが、欧州経済は金融危機で冷え込み、アメリカも高い失業率で消費が落ち込んだままだ。「世界の工場」が急速に陰りだしたのはなぜか、ジャーナリストの富坂聰氏がレポートする。
* * *
「世界の工場」としての中国が終焉を迎えつつある要因は、単に賃金の上昇だけではない。頻発するデモも大きな理由のひとつだ。
2009年、ゴミ焼却場の新設反対運動が相次ぎ、北京市六里屯のゴミ焼却場計画は白紙撤回された。また、これと前後して工場の建設も反対運動で次々に中止に追い込まれた。さらに3.11以降は、なぜか原子力発電ではなく、広東省石炭火力発電所の新設計画にも反対運動が起きた。
団結することで影響力を発揮できることを学んだ民衆たちが次々に「民意」を訴え、モンスター化している。暴動は最底辺の人々が中心となっているが、デモはもう少し上の中間層が中心だ。彼らは役人たちをはじめとする「濡れ手で粟」の人々が許せない。環境保護などを大義名分にしているが、実態は富める者への反発である。
このような「民意」という名のエゴの台頭は、結果的に外国資本の撤退を招く。工場の建設がままならず、廃液にも気を使わなくてはいけない、さらに事あるごとに民衆からいちゃもんをつけられる可能性があるそんな状況ならば、外国資本は中国以外の発展途上国に工場を新設する傾向を強めるだろう。
民意の台頭が結果的に国力を弱めることになるのだ。
※SAPIO2012年9月19日号