自民党総裁選で現職の谷垣禎一氏が出馬を断念した。一度は再選を支持したはずの森喜朗氏など党長老議員らが不支持へ身を翻し、「次期首相」の座はおろか、立候補もおぼつかなかった。
梯子を外された彼の姿は、12年前の「彼の大将」の姿にも重なる。「加藤の乱」を起こした加藤紘一・衆院議員だ。
加藤氏は当時、支持率が低迷していた森内閣に対する野党の不信任案に同調する構えを見せ、倒閣寸前まで追い込んだものの、党内に支持が広がらず失敗に終わった。
このとき、不信任案に賛成票を投じたら党除名という状況下でひとり本会議に出席しようとする加藤氏を、「あなたは大将なんだから! 独りで突撃なんてダメですよ!」と涙ながらに制したのが、「大将」の側近だった谷垣氏だ。
かつての側近の境遇を、いま加藤氏はどう見ているのか。
「彼はこの3年間総裁としてよくやったと思う。本来なら石原(伸晃)幹事長たちだって一蓮托生のはずなのに、責任がすべて彼に被されてしまっている」
盟友だった小泉純一郎氏をはじめ、党の仲間たちに次々裏切られた「加藤の乱」を思い出しているのか……。自身の失敗から、加藤氏は谷垣氏へこう助言する。
「私は、森内閣がのんびりやってたら民意が離れるよ、それを分かってなきゃいかんと思い、ある先輩から不信任案を真剣に考えろという忠告をもらったから行動を起こしたが、甘かった。アンチ自民の風が吹いていると思って扉を開けたら3~5倍の暴風雨で、民意を誤ったんです。
谷垣総裁も政治そのものに国民から向かい風が吹いていることは分かっていても、それが自分個人にも向いているとは思ってない。彼は頑固なんですよ。こうした政局では長老たちに選挙の風を読む力がありますから、彼らの意見も聞くべきなのに、ハイハイというだけで一切、自分の意見を変えない。そうすると意見した長老も頭にカッと血が上りますからねぇ」
長老の意見を聞いて失敗したはずの加藤氏が、意外にも谷垣氏に長老の意見を聞けという。その心は?
「早期解散に持って行くのは止めたほうがいいとアドバイスしたのに、そうはしなかったから……」
いつの間にか自身も長老の仲間入りをしていたということか。
※週刊ポスト2012年9月28日号