シャープが苦悶にあえいでいる。シャープの工場が立つ地方自治体の中には、税収の多くをシャープに委ねているところも存在する。作家の山藤章一郎氏が、シャープの工場がある栃木県矢板市を訪れた。
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明治期、この辺りは、那須野が原と呼ばれる一面の原野だった。水路を築いて開墾するしか生きる途はない、町名を自ら名乗った地元有力者の矢板武という人物がそれを成した。
大戦期、伐りだした材木を扱い、農業を拓いた町に、疎開政策の電機、繊維などの軍需工場が移転してきた。やがてそれも衰退し、町は企業誘致運動を展開する。〈早川電機工業〉が応じた。
ハローワークから車で5分、〈早川〉の名を冠した〈矢板市早川町〉。畑と空き地と国道とシャープ〈AVシステム事業本部〉しかない町である。〈シャープ〉の敷地は、体育館、テニスコート、グラウンド、研修所を有する33ヘクタールで、徒歩でめぐると1時間半ほどかかる。
ブラウン管テレビ、VHSビデオが最盛期の昭和50年代、3000人が働き、派遣を乗せたバスが走りまわったという。現在、従業員は半減。9月初めの午後2時。敷地内の社宅に干し物がかかり、小型車が数百台駐車していた。だが、人の姿はまったくない。稼働しているのかどうかも分からない。工場の脇道に、矢板市会議員の大貫氏が宣伝カーを停めていた。
「市長が直接シャープにお願いに行きました。液晶テレビはしょうがない、でも、太陽光関連のラインは稼働してほしいと。もう40年以上のお付き合いになります。市は、コピー機などの事務用品から家電まですべてシャープを買ってきました。しかし、リーマンショック前に較べ、ここ数年シャープからの法人税は98.6%減少した。それでも、税収でも雇用でも、シャープがなくなったら、市は成り立たないのです」
※週刊ポスト2012年9月21・28日号