落としても壊れない腕時計――のコンセプトでカシオ計算機の象徴になっている「Gショック」が、来年で発売から30周年を迎える。9月15日にはバンドや文字盤が真っ赤な記念の限定モデルも発売されるが、ここまでGショックがロングセラー商品になった要因は何か。
時計ジャーナリストで桐蔭横浜大学教授の並木浩一氏が、発売当時を振り返る。
「腕時計というより、常識離れしたツールという気がしましたね。『壊れない』という水際立った突き抜けぶりに驚いてつい買ってしまう。比較検討する相手がいないので買うしかないという意味での“マストバイ”状態がそのまま続いているのだと思います」
Gショックには“トリプル10”と呼ばれる設計哲学が根付いている。「寿命10年」「防水10気圧」「10メートルの高さから落としても壊れない耐衝撃構造」。技術者が200個以上の試作品を地面に叩きつける実験を繰り返した開発秘話は有名だが、愚直なまでにコンセプトに忠実で、その軸がブレないことがブランド力の堅持につながった。
それでも、発売開始からすぐに爆発的なヒットを記録したわけではない。デジタル時計や樹脂製バンドに対する「安っぽい」というイメージもついて回った。そこでカシオは大胆なプロモーション戦略に打って出る。
「人気に火がついたのはアメリカから。CMでアイスホッケーのパック代わりにしたり、映画『スピード』でキアヌ・リーブスが走行中のバスにしがみついて、Gショックでガラスを叩き割ってみたり……。腕時計がハンマー代わりになるなんてショッキングな事実でしたが、それが市販されているとなって、さらに話題になりました」(前出・並木氏)
並木氏は腕時計が人気になるのには“伝説”が必要で、Gショックの強さは数々の伝説をつくって話題を提供し続けるプロモーション力だと分析している。
もちろん、デザインや機能の追求も怠らない。女性用の「ベビーG」や30万円以上する最上位モデルなどを発売し、ファン層を拡げてきた。今年は20G(重力)まで耐えられるパイロット仕様モデルや、スマホの着信と連動して振動するタイプも発売した。
「ここまで来たらユーザーにとっては完全にオーバークオリティですが、それでもカシオは他社に絶対に真似されない独自性を極め、伝説をつくり続ける。Gショックは選ばれるのではなく『選んでみろ』と挑発する存在なのです」
だが、耐久性や時を刻む正確さは、いまや腕時計にとって当たり前の機能。このままGショックブランドが永続できる保証もない。慶応大学名誉教授で日本マーケティング協会理事長の嶋口充輝氏がいう。
「長年にわたって商品のブランド力を維持するには、勝ち続けるという意識よりも、負け続けないためにどれだけリスクを取って大胆なチャレンジができるかにかかっています。Gショックも基本コンセプト以外の二次機能、つまりユーザー志向に合わせた付加価値も訴求し続けないと、生き残りは難しい時代だといえます」