地震の影響によって、脳卒中などの心血管疾患が急増した――世界でも過去に例のない調査結果を発表したのは、東北大学大学院医学系研究科(循環器内科)の下川宏明教授だ。
下川教授らは震災後に、宮城県内でどんな病気が増えたのかを調査すべく、県内すべての消防本部、宮城県医師会と共同で調査研究を実施。東日本大震災発生1か月前の昨年2月11日から6月30日までの期間と、2008年から2010年の同じ期間の計4年分について、その間に県内で救急搬送された合計12万4000件のデータを分析した。
すると、衝撃の事実が明らかになった。
「脳卒中、心不全、急性心筋梗塞、心肺停止、肺炎について調べたところ、脳卒中に関しては震災直後の1週間で114人が救急搬送されたことがわかりました。震災前の1週間では70件でしたので、1.6倍に増えたことになります。震災後2週間と震災前年までの同時期との比較でも、脳卒中による救急搬送は1.4~1.8倍に増えていたんです」(下川教授)
さらに心不全の患者は、震災直後3週間は前年までの同時期に比べて、救急搬送の数が1.9~2.3倍に急増していた。
その理由としては、地震発生により薬剤の入手が困難になったことや、生活物資の不足による栄養バランスの悪化などが考えられるという。とりわけ脳卒中に関しては、そうした要因とは別に「地震そのものによる影響」も顕著に見られたというのだ。
「脳卒中については、地震直後に急激に増えた後、4月にはいりいったん平年並みに戻りました。しかし、4月7日にマグニチュード7の余震が起こると再び急増し、第2のピークを示しました。つまり、地震によるストレスが直接影響したと考えられます」(下川教授)
震災ストレスによる脳卒中、いうなれば「地震脳卒中」とも呼べるものの推移を見ると、脳卒中が約1か月後の大きな余震直後に急増していることがわかる。
「地震と病気の関係は以前から指摘されていましたが、今回の研究で震災と脳卒中のかかわりが初めて明らかになったのです」(下川教授)
がん、心臓病に次いで日本における死因の第3位を占める脳卒中にはいくつかの種類がある。大きくは脳の血管が破れる「脳出血」や「クモ膜下出血」と、脳の血管が詰まったり細くなったりして血流が悪くなる「脳梗塞」に分類される。調査によると震災の後にとくに増えたのは、後者の脳梗塞だったという。
「脳出血は高血圧と深い関連があるので、私たちは震災の影響で脳出血が増えるのではないかと予想していました。ところが調査では、脳出血は増えずに脳梗塞だけが本震と余震の双方の影響を受けて増えていたんです。
理由としては、ひとつには強いストレスによって血液が固まりやすくなって血栓ができやすくなったこと、もうひとつには心房細動などの不整脈がストレスによって増えるからだと考えられます」(下川教授)
※週刊ポスト2012年9月21・28日号