中高年に比べて若者の困窮をテレビ・新聞が報じる機会は決して多くない。なぜ、世代間格差や若者の貧困問題を報じないのか。今年3月まで日本テレビにディレクターとして勤め、「ネットカフェ難民」シリーズなどを制作してきた水島宏明・法政大学社会学部教授が語る。
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私が制作に携わった「ネットカフェ難民」シリーズをはじめ、2007年頃には非正規雇用の若者の実態がメディアでクローズアップされていた。非正規労働者はその後も増え続け、現在は20代前半の半数が非正規雇用または失業中。にもかかわらず、そうしたテーマの報道は激減した。理由としてまず考えられるのが、作り手側の意識の低さだろう。
マスコミでニュースの内容を決めるデスクやプロデューサー、現場の記者はみな「正社員」として雇用されている。非正規雇用の人たちの実態にそもそも疎く、関心を持てない。雇用に関し、「世代間格差」があると薄々感じても、勉強しようとする人間は少ない。
だから、相も変わらず札束を数える映像を使って大企業や公務員のボーナス支給を欠かさず報じる一方、ボーナスをもらえない若者たちがそうしたニュースに「ムカつく、ふざけるな」と憤りを覚えることに想像が及ばない。
「派遣村」や私がレポートしてきた「ネットカフェ難民」は目に見えてわかりやすく、当時はプロデューサーやデスクといった幹部・中堅社員の会議でも企画が通った。
ところがネタの新鮮さがなくなり“ブーム”が去ると、たとえ問題が解決していなくても状況が一変する。特に3.11後は、貧困問題をテーマに提案しても、「今はそれどころじゃないでしょ」という空気が会議を覆ってしまった。そうした風潮への違和感も私がテレビ局を去った理由の一つだ。
※SAPIO2012年9月19日号