去る8月29日、ショッキングな報道が世間を賑わせた。「妊婦血液でダウン症診断」「精度99%」「35才以上対象」「9月にも導入へ」…。ごく一般的な腕からの採血だけで、ダウン症など3種類の染色体異常が99%の確率で判別できるようになったというのだ。
ダウン症の正式名は「ダウン症候群」で、染色体異常の一種。知能面での発達や成熟に遅れのあることが多い。人が持つ2本ずつ23対、計46本の染色体のうち、21番目の染色体が1本多く、3本あるのがダウン症だ。
かつてはダウン症=短命とされ、成人になることさえ難しいといわれた時代もあったが、日本唯一のダウン症専門医院「愛児クリニック&予測医療研究所」飯沼和三院長によれば、現在の平均寿命は50才以上に延びているという。
半数近くは心疾患の他、十二指腸狭窄、食道閉鎖症などさまざまな併発症を持つが、状況は大幅に変わった。それもまた、医療の進歩の結果である。
「おそらく心臓病だけで、昔は40%程度のかたが10才以下で亡くなっていましたが、今は根治治療が行われ、寿命がてきめんに延びました。運動不足と過食から肥満を来す例もありますが、生活改善をはかれば、さらに寿命は延びると思われます」(飯沼院長)
たんに障がいと捉えられがちだが、個性や感性は豊かで、時には天才的な能力を発揮する。
「運動発達の遅れを取りあげても、ダウン症の子は筋力が弱いのではなく関節がとても柔らかいのが特徴。そのため、普通の子と同じ運動をしようとすると学習の時間はかかるけれど、いったんできるようになると、普通の子では取れないような姿勢で踊れるので、ダンスの天才といわれたりする。また、好きなこととなると驚くほどの集中力や洞察力を発揮するので、何もかも知的発達が遅れるというのは間違いです。
ひと言で言うと、ダウン症児は生まれついての上品な性格なので、争いを特に嫌います。人の気持ちをよく読みます。これを承知の上で、運動や知能の発達を促してやれば、効果を発揮します。小学校入学の時点で、7割近い子供が普通学級に通っていますよ」(飯沼院長)
医療や教育、療育が進み、ほとんどの人が普通に学校生活や社会生活を送っている。(財)日本ダウン症協会理事の水戸川真由美さん(52才)も言う。
「ひと口にダウン症といっても症状はさまざま、個性もそれぞれなので一概にはいえませんが、普通高校、さらに大学に行く人もいるし、成人期になると一般企業に就職している人もいます。
そして良くも悪くもいろんな子がいるのはダウン症ではない子供と同じ。音楽や美術や文学の世界で才能を開花させる人もいれば、うちの息子のように親譲りの趣味を楽しむ子もいて、そこは所詮“親の子”です(笑い)」
その上で、水戸川さんはこう危惧する。
「今回の報道でいちばん傷ついているのは、彼らダウン症の人たちなんです。『自分は生まれてきちゃいけない人間だったの?』と存在を否定された気持ちになることだけは何としても避けたい。
今後さらに研究が進めば、他の遺伝的疾患はもちろん、先天的能力の選別すら可能になるかもしれないのに、そうした根本的な問題を誰も報じないで、新型検査の精度や賛否ばかりが話題になるのは、どう考えてもおかしい」
※女性セブン2012年9月27日号