バブル崩壊後の1993年に流行語となった「リストラ」を、いま社内で軽々しく口にする者はいない。多くのサラリーマンにとって、いまや自らの身に差し迫った危機だからだ。
自分が“肩叩き”の対象となった時、企業という巨大な組織に個人としてどう対峙し、どう対処すればいいのか。まずは相手の戦法を知る必要がある。
今回本誌は、大手メーカーから委託されたあるリストラ請負企業(対象者を退職に導き、再就職を支援する企業)が作成した、早期希望退職の対象社員に対する「部長(面談者)の心得」と題した面談マニュアルを入手した。
「心得」はまず、面談者が守るべき注意点を列挙する。
〈感情的な言葉は決して漏らさない(「申し訳ないけれど」「すまないけれど」は×)〉、〈見えすいた決まり文句は言わない(「貴方の気持ちはよく解ります」「新しい職なぞすぐに見つかるでしょう」などの発言は、かえって当人の反発を誘う)〉、〈明確になっていることは、はっきりと断言し、個人的な見解を慎む(「私はそう思います」は×で、「会社はこう考えています」が○)〉
これらを読むと、会社側が一切の情実抜きに面談に臨もうとしていることがよくわかる。興味深いのは、〈(対象者)本人に70%話してもらう〉のが重要だと述べている点。話しているうちに辞めてもいいかなという気持ちになってもらうのが大事だということだ。
その上で、面談における40余りの質疑の想定が記載されている。以下はその一例だ。
〈Q:会社は、常々雇用は守ると言っていたではないか〉
〈A:人員削減は会社がとる最後の手段であることは重々承知しています。しかしながら(中略)それをせざるを得ないことになりました〉
〈Q:私を辞めさせたいのか〉
〈A:会社存続のために組織や人員のスリム化を行わざるを得ず、貴方の能力が活かせる場を社外で見つけることをお考えください。貴方の将来を考えた場合、貴方を活かす道になると考えています〉
社会保険労務士の佐藤広一氏が、質疑応答の意図を解説する。
「経営陣への責任追及を回避しながら、該当者本人の責任や瑕疵ではなく、他の外部要因によって選定されたと伝えることで、本人から納得性を引き出すのが狙いです。また決して『辞める』というニュアンスの言葉は使わないで、しかし退職を誘引する交渉であることを堅持する言い回しを繰り返しています」
確かに「心得」は、〈「解雇・クビ」という言葉は不適当であり、絶対に言わないこと〉と注意しながら、同時に〈「クビではありません」という言い方も不適当です〉とも書いている。
※週刊ポスト2012年10月5日号