「素直に石原を支援する気持ちにはなれない」
そう無念の胸の内を漏らしているのが自民党の谷垣禎一・総裁だ。
なにしろ総理の座を目前にしながら、“平成の明智光秀”こと石原伸晃・幹事長の裏切りで総裁選出馬断念に追い込まれたのだから心中穏やかではないのは当然だろう。自民党の60年近い歴史の中で2人目の「総理になれなかった総裁」の不名誉な称号を受けることになった。
もっとも、自民党にはこういう場合の救済ポストがある。衆院議長だ。先代の「総理になれなかった総裁」である河野洋平氏は、総裁を降ろされた後、2003年から2009年まで日本憲政史上最長の6年間にわたって衆院議長を務めた。
「苦しい野党時代に自民党を支えた総裁を使い捨てにはしない。議長として労に報いるのが自民党のよい伝統」(自民党OB)なのだという。
現在の横路孝弘・議長は民主党出身だが、次の総選挙で自民党が第一党になれば衆院議長を出せる。
ところが、その場合もすんなり「谷垣議長」ということにはなりそうにない。総裁選に続いて、議長の椅子争いでも谷垣氏は厳しい戦いを強いられるからだ。
憲法上、「国権の最高機関」と位置づけられている衆院と参院の議長は総理大臣より給料が高いうえ、外遊の際には元首級の待遇を受けることができる「国会議員としての最高の栄誉あるポスト」である。それだけに総理になれそうにない派閥領袖やベテランの有力議員が虎視眈々と狙っているのである。
通常、衆院議長の要件は、「70歳以上で当選回数が多い長老の中から党への貢献度などを考慮して選ばれる」(前出のOB)とされ、任期は次の総選挙までだ。
当選回数でいえば、当選10回の谷垣氏の上には野田毅氏(当選13回)、加藤紘一氏(13回)、保利耕輔氏(11回)がいるし、同じ当選10回でも古賀誠氏、高村正彦氏、中川秀直氏らの方が勤続年数は長い。
「谷垣さんはまだ67歳と若いうえに上が詰まっている。次かその次くらいの議長候補になるだろうが、“オレが先だ”と古賀氏らに邪魔される可能性は高い」(自民党中堅議員)
古賀氏に引導を渡されて総裁続投を断念せざるを得なくなった谷垣氏は、議長レースでも再び明智光秀に討たれる運命なのか。
※週刊ポスト2012年10月5日号