70人もの警察官が見守るなか、イルカ保護団体の呼びかけで集まった36人が浜辺でパフォーマンスを始めた。祈祷、ギターの弾き語り、海に入った男性による奇妙な踊り……激昂した右翼団体が詰め寄ると警官隊が割って入り、普段静かな港町は一時騒然となった。
和歌山県太地町――イルカの追い込み漁が解禁された9月1日の光景だ。
イルカ漁をテーマにした映画『ザ・コーヴ』が2009年に公開されてから、ここ太地町は世界の動物保護団体の標的となっている。事実、イルカ漁の解禁日以降は、毎年過激な活動家たちが大挙して押しかけているのだ。
今年も解禁日翌日には、シー・シェパードのメンバーや『ザ・コーヴ』の主役を演じたリック・オバリーといった“有名人”が登場。2日続けてイルカの水揚げがなかったにもかかわらず、混乱はさらに拍車がかかる。
シー・シェパードの女性リーダーは、イルカに捧げるために3か月前に彫ったという入れ墨を披露。彼女の右腕には「私の心は、魂は、精神は、これからもずっと永遠に太地のイルカの傍にあり続ける。」と、日本語で彫られていた。
イルカが獲れないと知るや、まず町内の『くじらの博物館』に押しかけた。昨年飼育員の作業を妨害したことを理由に入館を断わられたのだが、それでも引き下がらないため結局警察が出動。また、イルカやクジラの肉を売るスーパーに入り込み、「撮影禁止」の但し書きを無視して店内で好き勝手に撮影。
咎められると押し問答の末に警官20人が集まる騒ぎとなった。さらに、イルカと泳ぐことのできる施設『ドルフィン・ベェイス』に車を走らせ、訓練や餌付けの様子をビデオに収める。施設の職員は、「勝手に撮影して嘘ばかり書かれるけどもう慣れました」と諦め顔で語る。
一連の妨害活動に地元の人たちは挑発に乗らないよう沈黙を貫いているが、現実はそれほど悠長ではない。『恐怖の環境テロリスト』の著者、産経新聞の佐々木正明氏が警鐘を鳴らす。
「なかでもポール・ワトソン率いるシー・シェパードは、FBIがエコテロリズムの起源であるとした団体です。太地は彼らにとってイルカを守る聖なる戦いの場であり、一方で、ネットを活用した巧みな宣伝により世界中から寄付金が集まるようになりました」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2012年10月5日号