9月に中国で多発した反日デモという名の暴動。日系スーパーの破壊・略奪や自動車販売店の放火など「チャイナ・リスク」の存在を知らしめた。これまで「アジア進出」といえば中国を指すことが多かったが、他所に目を転じてみれば、成長著しい東南アジア諸国は重要な消費マーケットであり、生産拠点だ。
しかし、この地域で成功をおさめている日本企業はそれほど多くない。日本の課題はどこにあるのか。東南アジアの経済動向に詳しい、A・T・カーニー プリンシパルでコンサルタントの中村真司氏が解説する。
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東南アジアにおける日本企業の存在感は日に日に増してきた。この地域で事業を展開し成功した企業としては、ユニ・チャームが1997年にインドネシアに参入し、乳幼児用紙おむつ市場で圧倒的なシェア1位を獲得するにいたったことや、1960年代から東南アジア市場に参入したマンダムが、インドネシアの男性用整髪市場でシェア1位であることが知られる。マンダムの連結決算で売り上げの2割はインドネシアであげたものだ。成功した企業からは多くを学べる。
海外進出でよく言われるのは、現地の趣味嗜好、文化、経済水準などに沿って商品設計や生産スタイルを“現地化”するのが重要ということだ。しかし、消費者の購買力に合わせて価格と品質を落とせばいいといった単純なことではない。実例を挙げながらポイントを解説したい。
まず現地特有の風土や文化に根ざしたニーズをとらえ、「商品の付加価値」をアピールして成功した事例がある。大塚製薬のポカリスエットはインドネシアで年間4億本(330ml缶換算)以上売れていて、日本での販売量の半分に迫る。店頭で見ると他の清涼飲料水が3000ルピア(約24円)程度のところ、ポカリスエットは5000ルピア(約40円)だが、高くても売れる。現地の文化・風土を捉えた戦略があるからだ。
インドネシアでは蚊が媒介する「デング熱」という熱病がたびたび流行する。同社は高熱時の水分補給に有効だと医療関係者に地道に説明し、商品の認知度を高めた。
また、人口2億4000万人のうち80%以上を占めるイスラム教徒のラマダン(断食月)の習慣にも着目。1か月間、日の出から日没まで断食するのだが、脱水時の水分・栄養補給に効果があるとメッセージを打ち出した。1989年の進出から10年ほどは、「スポーツ飲料」として打ち出して苦戦が続いたが、現地ニーズを掴んで以降、確固たる地位を築いた。
ホンダは中国メーカーより3~4割高い価格にもかかわらず、インドネシアで二輪車のシェア1位。今年は新工場を建設すると発表し、生産能力は年間530万台となる。勝因は「アフターサービス」だ。道路事情が悪く、重い荷物を載せて走るインドネシアでは故障が頻発するが、ホンダは全土で1000店以上の販売店を持ち、その大半が修理部門を併設。結果、サービス網を整備しない中国メーカーの低価格攻勢に勝利できた。
一方、「価格設定」の工夫で成功の足がかりを掴んだのが味の素だ。新興国では「量が多くて単価が安い」より、「一回の支払額が少なくて済む」ことが重要視される。そのため、味の素はフィリピンやタイ、インドネシアに進出した際、粉末を日本で売る時より少量のパッケージにすることで、消費者に受け入れられた。もちろん、「料理に粉末を入れるだけで味が良くなり栄養摂取を助ける」という商品コンセプトは新興国の食卓事情に合致するが、それだけでは大成功には繋がらない。
どこの国にも、「この値段なら買ってもいい」と多くの人が思う価格があり、「マジックナンバー」と呼ばれる。例えばタイの日用品なら5バーツ(約13円)か10バーツ(約25円)。こうした数字を押さえておくことも大切だ。
ちなみに味の素は、当初はベーシックな商品の「味の素」で展開し、その後現地の嗜好に応じた調味料を開発。スープや炒めものに使われるうま味調味料「Masako」がそれで、味の素ブランドはマレーシアやフィリピンでも地位は揺るぎないものとなった。
※SAPIO2012年10月3・10日号