今年もノーベル賞の季節となった。本家に先駆けて発表されたのは、ユーモア溢れる科学研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」。受賞したのは、喋り好きな人をオウム返しの要領で黙らせる装置、「スピーチジャマー」を発明した産業技術総合研究所の栗原一貴研究員だった。
広く社会に普及している商品でも、開発者たちは常日頃から消費者の意表をつくような大胆な発想の転換が求められている。ヒット商品を編み出す法則のひとつ、それは常識を覆す「逆張りの発想」である。あまり奇をてらいすぎてもすぐに飽きられてしまう危険を孕んでいるため、企業にとっては大きな賭けとなる。
逆転の発想が見事に当たり、なおかつロングセラーとなっているヒット商品を紹介しよう。
■主張しないバスト/「小さく見せるブラ」(ワコール)
その名の通り、特殊構造でバストトップを押さえるブラジャー。「ヌーブラ」などのヒットで、偽装してまで胸を大きくみせたい女性の欲望が満たされる一方、ワコールは「太って見えるからイヤ」「ブラウスの隙間が見えて恥ずかしい」という“巨乳派”の悩みにも応えた。2010年の発売以来、累計販売枚数は22万枚。今年も既に計画を上回り、増産体制に入っているほどの人気となっている。
■辛くないキムチ/「ご飯がススムキムチ」(ピックルスコーポレーション)
2009年の発売初年度で40億円を売り上げたヒット商品。キムチの持つ「辛くて酸味が強い」という常識を180度覆し、甘いキムチに仕上げることで、刺激がキライなファミリー層のファンを増やすことに成功。商品パッケージにキムチの名を大きく記していないのも同社のこだわり。つまり、「キムチだけどキムチじゃない商品」に作り変えてしまったのだ。
■健康に良いコーラ/「キリン メッツ コーラ」(キリンビバレッジ)
これまで炭酸飲料、中でもコーラは「健康に良くない」というマイナスイメージが浸透していたが、同社はそれを逆手に取り、なんと特定保健用食品に生まれ変わらせた。食物繊維成分を含み、食事の際の脂肪吸収を抑える効果がある。健康面でのアピールは、消費者の購買意欲を“ワシ掴み”。今年4月の発売からわずか1か月足らずで年末までの目標販売100万ケースを達成した。
■歩きづらい靴/「イージートーン」(リーボック ジャパン)
靴底の設置面を半球状にするなど足元をわざと不安定にさせた靴。実は体の筋肉やバランスを整える「トーニングシューズ」というジャンルで米国が発祥だが、日本でもリーボックが2010年から広告宣伝を展開して火をつけた。トーニングシューズの市場規模は2011年で前年比2倍の約150万足。その後も多メーカーが追随して認知度が高まっている。最近ではオフィスをトーニングシューズで闊歩するサラリーマンも急増中!
■染まらない白髪染め/「つや髪」(セリジエ)
「染まらない白髪染めなんて売れるわけがない」と思うのは早計だ。「つや髪」は1か月に何度でも気軽に染められ、じかに手に取って乾いた髪の毛に塗りこむことができる利点がある。他の白髪染めと違って染める力が強くない分、手も黒くならない。そうした気軽さが受け、発売後4か月で月1万本を売り上げるヒット商品に成長した。
■隠さなくてもいい踏み台/「ルカーノ」(長谷川工業)
家の物置や片隅に仕舞いこまれて実用性に乏しい踏み台。ならば、徹底的にオシャレにして室内にも置いておきたくなる商品にすればいいじゃないか――というのが同社のコンセプト。そのため、デザインはマイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox360」の開発に携わったデザイナーに依頼し、ビスを外側に見せないなど細部にこだわった。2009年の発売以来、月に300台以上は売れ、高級車販売店の成約プレゼントにまで採用されているという。
逆張り商品をヒットさせる条件――。それは、どんなにニッチな市場でも消費者の意見を愚直に吸い上げ、いかに勇気を持って商品化できるかにかかっているといえそうだ。