今季、各地の球場は赤く染まった。広島カープの快進撃で、「15年ぶりのAクラス」も夢ではなくなった時、広島ファンが大挙してスタンドに押し寄せ、心を躍らせながら声をからしたのだ。Bクラスに沈んだ理由は何だったのか。赤ヘル軍団の黄金期を知る3人の重鎮OBが、当時のプロ野球を振り返る。
安仁屋宗八:「昔はクセのある選手も多かったね」
北別府学:「真ん中を打てない打者って結構いましたよね。でもプロはコースをついてきて、ど真ん中になんてほとんど投げないから、うまくいっていた。例えば三村(敏之)さん。片手でコーナーの球をうまく打つけど、ど真ん中を空振りしていた」
安仁屋:「古沢(憲司)という投手もすごかった、というか変わっとったな。市民球場で1死満塁、2点差で勝っている場面にリリーフで送ったら、いきなり押し出し四球。慌ててマウンドに行ったら、“さっきのヤツには打たれる気がしたからストライクを投げなかった〟というのよ。それで次の打者をゲッツーで打ち取って試合終了。霊感でもあったんかのォ(笑い)」
達川光男:「これ、実話ですよ。“満塁ホームランなら4点やが、押し出しは1点じゃ”っていってましたね」
安仁屋:「それに比べ、今の子は真面目な子が多い。酒を飲みに行かないし、メシも食わない。寮でもおかずがいっぱい余るんですよ。鍋物でも、最後の最後まで食べ尽くすのはコーチ陣だった。で、若手はコンビニで買ってきたお菓子を食べながら部屋でテレビゲームをやっている。二軍監督の時にはゲームを取り上げて、ウチの子に使わせてやりました(笑い)」
北別府:「門限を破れとはいわないけど、もっと一般社会と接するべきですよね。僕なんか、完投して一番の楽しみは酒とタバコだったけどなァ(笑い)」
達川:「飲むといっても、ケジメがついてたからね。先発投手陣は2日前に遊びと酒をピタッとやめる」
北別府:「そういう意味じゃ、期待できるのは梵かな。アイツは中でも気が強くて面白い。ベンチから何かいわれると、“何をいうとんじゃ”という顔をしているし、何を聞いても“絶好調です!”と答える。明らかに調子が悪くてもね(笑い)」
安仁屋:「内野守備を鍛えるという意味でも梵は大事。それに堂林。今年はエラーが多かったけど、かつての阪神の吉田(義男)、三宅(秀史)のようなコンビを目指して欲しい」
達川:「エラい古い話やね」
安仁屋:「カープの先輩は皆、あの阪神の内野陣をバックに投げたい、といっていた。やはり守りが大事やから」
達川:「まァ、選手の特徴も、今年1年で野村監督はよくわかったでしょう。来年こそ、真価が出せると思いますよ。僕も監督を2年やったけど、選手の性格や技量は3年たってようやくわかるんじゃないかな」
安仁屋:「来年が集大成だと、思い切ってやる。それで結果が出なければ、自分から責任をとればいい」
北別府:「何度もいうけど、今年は本当によくやったと思う。4番を欠いてこれだけできたんだから、来年が楽しみですよ。来年こそ『破天荒』(今季のキャッチフレーズ)でやればいいんです」
――来年こそは期待していいんでしょうか。
一同:「大丈夫!」
※週刊ポスト2012年10月12日号