<1000人を超える隊員の遺書が回収され、そのままになっていたことがわかりました。これらの遺書は、特攻隊員の遺族に対する調査で集められ、海上自衛隊の倉庫にしまい込まれていたのです>。
“歴史的新事実”を印象づけるナレーションとともに、番組は始まった。NHKが8月28日に放送した『クローズアップ現代』は、海軍の特攻作戦に参加した隊員の遺書1000通あまりが、広島県江田島市にある海上自衛隊第1術科学校から「突然出てきた」として、遺書を回収した経緯や、それが「ひっそりと眠っていた」理由に迫る内容だった。
ところが、この番組を観た多くの関係者は、その内容に困惑したという。ある遺族関係者は語る。
「江田島に遺書があることは知っていましたから、最近また新たに遺書が1000通見つかったのかと思いましたよ……」
おや、新たに見つかったわけではないのか? 資料が所蔵されている第1術科学校の広報係に訊くと、
「以前から遺書の存在は把握しており、公開もしていました。どうしてああいう放送になったかはわかりません……」
と、こちらも戸惑っていた。第1術科学校では学校内を見学するツアーが毎日開催されており、参加すれば、海軍関係の資料が展示されている教育参考館と呼ばれる建物に入り、収蔵されている遺書を誰でも見ることができる。
海自OBの案内のもと、実際に教育参考館を訪れると、ガラスケースの中に数十通を超える特攻隊の遺書があった。教育参考館の元職員はこういう。
「展示は以前から行なっており、2000通ほどの遺書があることも把握していました。遺族の問い合わせがあれば展示していないものでも公開していた。特攻隊の遺書は国へ登録しているし、資料はすでに調べ尽くしたので、新たに出てくることなどないはずです」
だが番組では、特攻隊の遺書が「1000通あまりも回収されていたことが、今回初めてわかった」と、あたかもその存在が最近まで知られていなかったかのような内容となっている。
NHKはこれについて、「海上自衛隊の説明によれば、倉庫の中の遺書と遺族調査資料のほとんどは、これまでしまわれたままになっていて、現在、整理が始まった段階だということでした」と説明しており、見解の違いが生じている。
※週刊ポスト2012年10月12日号