「どんな偉い方々が来るんだか知らんけど、やたらと交通規制があるんだろ。迷惑な話さ」
サラリーマンの街、東京・新橋で客待ちをするタクシー運転手がそうこぼせば、新橋ガード下の大衆居酒屋の店主も苦い顔を浮かべる。
「世界中から人が来るから特需が起きるとかいうけど、そんなのは高級ホテルやレストランだけ。外人さんはウチには来ない。普通のお客は近寄らなくなるから困るよ」
10月9日から14日まで、新橋の隣、有楽町の東京国際フォーラムなどで行なわれるIMF(国際通貨基金)・世界銀行総会は、日本では48年ぶりの開催となる。
財務省は「世界各国の約2万人が訪れる大イベント。経済効果も期待できる」と触れ回っているが、ブラックジョークにもほどがある。IMFは日本の消費増税を後押しした張本人だからである。
IMFは2010年7月、日本に対して「消費税を15%に引き上げれば、国内総生産(GDP)比で4~5%の歳入増が生じる」と消費増税を求める提言を発表。新聞・テレビはこぞってこの国際機関の“お墨付き”を報じ、消費増税への流れを加速させた。
通貨と為替相場の安定を図る目的で設立されたIMFの本来の役割は、財政危機に陥ったギリシャのような国に融資する代わりに、財政健全化指導などの介入を行なうというもの。IMFへの拠出金額で世界第2位の日本に対する「提言」には、金融関係者からも「不自然だ」との声が上がった。
さらに、野田首相が「日本経済を消費増税で立て直す」と“国際公約”した今年5月のG8サミットの時に、首相はIMFに対して突然、600億ドル(約4.8兆円)もの追加拠出を表明した。消費税約2%分に相当する血税を差し出したのだ。
この背景にあるのがIMFと財務省の蜜月関係だ。財務省にとってIMFは21人(昨年末時点)の出向者を送り込んでいる“超優良天下り先”。IMF副専務理事の篠原尚之氏は財務省OBで、消費増税を主導した勝栄二郎・前事務次官の同期でもある。
相澤幸悦・埼玉大学経済学部教授が指摘する。
「IMFの提言の理屈は、“アメリカに次いでお金や人を出している日本の財務省の意向を大いに反映している”となっています。つまり、財務省が望む消費増税をIMFに代弁してもらったというわけです。
日本が自主的に600億ドルの拠出を決めたのと、総会を全面的にバックアップしているのは、引き続き財務省の意向を伝えてもらうため。狙いはさらなる消費増税です」
いうなればIMF総会は、世界に羽ばたいた財務官僚が凱旋帰国して、消費増税成立を祝う一大イベントなのだ。そして増税で国民から吸い上げたカネから、またしても彼らの天下り先に巨額の貢ぎ金が拠出される展開となるのは容易に想像がつく。
※週刊ポスト2012年10月19日号