10月5日に電気通信事業者協会から、携帯各社9月の契約数が発表された。他社キャリアから乗換えるナンバーポータビリティ(以下、MNP)は、95,300件の転入超過でKDDIが12か月連続1位となった。
人気機種iPhoneというキラー端末の導入といった追い風が大きな要因だが、同じiPhone、しかも先行投入したソフトバンクモバイル(以下、SBM)との激しいシェア争いの中、KDDIがMNPトップを走り続ける要因はどこにあるのか? さまざまな立場の人に話を聞いた。
まずMNPが進んだ要因ついて、ケータイジャーナリスト・石川温氏は「ケータイ時代は、メルアドに縛られており、どうしても他キャリアに乗り換えというのに抵抗を感じてしまっていたが、スマホ時代になり、気軽に乗り換えられる環境が整ってきたというのが大きい。
ひとつは、LINEというサービスが登場し、キャリアは関係なく、テキストメッセージを送れるようになった。また、LINEユーザーでなくても、SMSによって電話番号を使って、ショートメッセージが送れるようになったのもプラス材料。キャリアが変わってしまっても、SMSで最低限のやりとりはできるし、新しいメアドをSMSで聞くことも可能。そうしたことから、MNPしても不便ではなくなりました」と、携帯電話でのコミュニケーションの変化を挙げる。
また各社がMNP利用者を取り込むための施策が、通信料金をできるだけ節約したいユーザーの心理にフィットし、MNPの利用活性化に繋がっているようだ。
「料金面では、各キャリアがMNPを利用すると『2年間基本料金が無料』といったキャンペーンを展開しているのが大きい。縛りが終わる2年ごとにキャリアを買えていくと、一番お得に使えるようになります」(石川氏)
iPhone 5発売後も、MNP1位を獲得して弾みをつけるKDDIの広報担当者は、今の流れや新機種の特徴などについてこう語る。
「料金面ではSBMとほぼ横並びの中、テザリングなど付加価値の機能がある点を評価していただけたのではないでしょうか。iPhone 4Sの際は、いくつかの機能対応が販売開始に間に合わなかったこともあり、ユーザーの方に機能面で劣っているという印象を与えたという反省がありました。その分も含めて今回のiPhone 5販売開始にあたっては、先行して多くの機能が発売に間に合うよう、技術陣が努力したことでユーザーの方々にご支持いただけたと考えています。
機能という点では、LTEが使えるというだけでなく3Gの通信速度も速くなっています。4Sと比較して5ではアップグレード版に対応し、理論値ですが規格上3倍ほど速度が上がっているので、3Gでも“結構速い”と体感いただけると思います」
同じ機種でありながら、通信速度や電波状況を含め機能面でSBMと比較されることの多いauのiPhoneだが、実際にMNPでauのiPhone 5を購入したユーザーの反応はどうだろうか?
■吉田樹さん(仮名・30)
「元々auユーザーだったんですけど、iPhoneが欲しくてSBMに一度乗換えました。でもiPhone 5発売を機に、auに出戻り。MNPは2度目だったので勝手もわかっていたし、事前に予約番号を取っていたので、手続きもすぐできましたね。
iPhone 5自体のスペックが高いし、電波も安定している状態ですし、サクサク動作するので不便を感じることはなく快適に使っています」
■川本徹さん(仮名・25)
「以前はdocomoで海外メーカーのスマホを使っていたのですが、本体とアプリの相性が悪かったせいで頻繁に電源が落ちてしまうことがあって……5が出るのを機にiPhoneにしたくて、量販店でリサーチや相談をしました。
電波の安定感という点でauを薦められて、通信料など価格面を比較してほとんど変わらなかったので、“それなら繋がる方”って。前の携帯が親の名義で今回はその名義変更もしたため、委任状の書類はちょっと面倒でしたけど、MNPの手続き自体は量販店でも簡単にできましたよ」
■高橋健二さん(仮名・36)
「SBMのiPhone 4Sを使っていたのですが、テザリングに惹かれてauのiPhone 5に乗り替えました。最初はテザリング目当てだったのに、変わってみたら電波がヤバイ!(笑)
昨日の夜、仕事でお客さんと人の混み合う場所に行ったのですが、たまたまお客さんはSBMのiPhone 5を持ってらっしゃって、そっちは回線が混み合って繋がらないのに、自分のiPhone 5は普通に使える状態だったので、リアルに“MNPして良かった”と実感できましたね」
料金は変わらず、新機種のスペックやテザリングなど機能面のきっかけがありつつも、電波の“繋がりやすさ”に満足度を覚える意見が目立った。
「電波の安定ということでは、人が集まる、生活動線に重点を置いて“繋がりたい場所で、サクサク繋がる”ということを意識しています。LTEのエリアに関しても今はまだ主要エリア中心ですが、こちらも順次広がって行くので、より幅広い場所で快適にお使いいただけるようになる予定です」(前出・KDDI広報)
またどのユーザーも利用した窓口や契約変更前の条件などによっても異なるが、MNPの手続きにかかった時間はいずれも30分~1時間。これは通常の機種変更や新規契約にかかる時間と、大きな差はない。
かつて「ひとり勝ち」と言われていたが、今回発表された携帯各社の契約者数では、純増数こそ伸びているもののMNPでは転出超過に苦戦するdocomo、純増数が320,200件で1位のSBM、そしてMNP転入でシェアを拡大するKDDI。メールアドレス変更などの障壁が低くなり、さまざまなプラン活用による通信費節約にも有効なMNP利用は携帯ユーザーに浸透しつつある。そんな中、携帯大手3社の対決は今後どうなって行くのだろうか?
「やはり、iPhoneが一人勝ちの状態。そのため、NTTドコモから、iPhoneのあるKDDI、SBMのユーザーが流れている。9月もdocomoはマイナス9万5200件と他社に流出している状態。さらに今回はテザリングをいち早く始めたこともあり、KDDIが圧倒的に人気が高い。
ただ、SBMも、業界第4位のイー・アクセスを買収し、ネットワークの強化に力を入れるなど、孫社長が本気になって巻き返しを図ろうとしている。業界が寡占状態になることで、いずれ、3社のシェアはさらに拮抗していくかも知れないですね」(前出・石川氏)