欧州危機が沈静化せず低迷相場から脱出できない世界の株式市場だが、ここに来て新たな買い手が注目を集めている。それが新興国の富裕層である。その中でも恒常的な経常収支黒字国であるフィリピンの投資家について、世界のファンドフロー分析に詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表の宮島秀直氏が解説する。
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英国の機関投資家にヒアリングをした結果、これまでに見られなかった日本株の買い手が現われていることが判明した。エマージング地域の富裕層たちである。彼らの資金が英国のグローバル株式投信を通じて、各国の株式市場に流れ、日本の個別銘柄も買われているというのだ。
とりわけ注目したいのが、フィリピンの個人投資家だ。意外に思われる人も多いだろうが、フィリピンは恒常的な経常収支黒字国である。その経常黒字を支えているのが、フィリピン人海外就労者の本国送金。昨年の本国送金額は、欧米主要国の景気後退にもかかわらず、前年比7.2%増の201億2699万ドルと過去最高を記録した。
フィリピンの個人投資家の資金を運用しているロンドンのファンドマネージャーは、「フィリピンの経常収支の拡大と経済成長を支える、海外就労者の知的レベルの高さに注目する必要がある」と指摘している。
これはどういうことかというと、フィリピンは大量の労働者を海外に在留させ、莫大な本国への送金によって経済成長を遂げてきたが、その主体は日本でイメージされるルームメイドや介護士だけではなく、公認会計士、弁護士、医師、大学教授、経営コンサルタントなど、極めて高度な知的職業であることが多いのだ。
フィリピン人の公認会計士は世界で2番目に多いという事実や、世界最大の経営コンサルタント会社であるマッキンゼーの役員で米国、欧州についで多いのがフィリピン人といったデータがそれを裏付けていよう。
経常黒字が個人の送金であるだけに、知識層の個人金融資産は豊富で、それが海外株式投資に向けられている。先のファンドマネージャーによると、特に、長年国交があり、国として親しみのある日本企業への投資が活発となっているようだ。
投資対象としては、日本の食品メーカーや介護サービス関連企業への注目度が高いという。中でも、介護ビジネスは、日本政府が成長産業として推進することを発表し、フィリピン政府とも介護士の派遣に関して緊密に議論を行なっている経緯から、日本の深刻な社会問題となっていることがフィリピンの知識層に広く知られ、介護サービス関連企業に高い将来性を見出した模様。
さらに、実際に介護士として働いたことがあるフィリピン人も多く、現場の状況についても理解度も高い。フィリピンの知識層は、自らが納得できる銘柄を買っている。株式投資の王道を進んでいるという点でも、注目に値するだろう。
※マネーポスト2012年秋号