白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、不妊と食事の関連について解説する。
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現在、日本では10組に1組の夫婦が不妊に悩んでいる。そのうち女性に原因があるケースが45%、男性に原因があるケースが40%、原因不明のケースが15%と報告されている。
この中で男性不妊の割合は年々増加傾向にある。環境ホルモンや様々なストレスを受けることによって、身体の中で発生する活性酸素が男性不妊の増加に拍車をかけていると指摘する報告もある。
これまで食事の内容と不妊の関連については複数の研究で報告されているものの、一貫した結果が得られなかった。そんな中、米国ニューハンプシャー州・ハノーバーのダートマス医科大学産婦人科のジル・アタマン博士らは2006年12月から2010年8月にかけてマサチューセッツ総合病院不妊治療センターを受診した米国人男性99例を対象に、質問票による食事調査と精子標本の分析を実施した。そのうち23例では、精子と精液中の脂肪酸濃度も測定した。
その結果、食事で脂肪の摂取が多かった群の男性は脂肪の摂取が少なかった群の男性に比べて、射精1回あたりの精子数が43%減少、単位精液量あたりの精子濃度は38%も減少していることが分かった。
さらに食事中の脂肪の質を比較・検討すると、精子の数と食事中の飽和脂肪酸の量に明らかな関連性が見いだされた。すなわち、肉やバターなどに多く含まれている飽和脂肪酸の摂取量が多い男性は摂取量が少ない男性に比べて、精子濃度が41%も低かったのだ。
一方、魚に含まれているオメガ-3不飽和脂肪酸の摂取量が多かった男性には、精子に奇形が少ない傾向が認められた。
これまでのところ飽和脂肪酸が精子の数を減らすメカニズムは不明であるが、「今回の研究は、食事で摂取する飽和脂肪酸が精子の質を下げている可能性を示唆するもの」であるとアタマン博士は指摘する。今後は、食事中の飽和脂肪酸の摂取量を減らし、オメガ‐3不飽和脂肪酸の摂取量を増やす――肉よりも魚の摂取を増やす――ようなライフスタイルの導入が不妊治療のオプションの一つになるかも知れない。
このように食事を変えても期待通りに赤ちゃんを授からないかもしれないが、少なくとも生活習慣病の原因になる動脈硬化の予防は期待できそうだ。
※週刊ポスト2012年10月19日号