会社から十分な権限や裁量も与えられていないのに、肩書きだけ管理職扱いされて残業代はもらえず、おまけに過酷な長時間労働を強いられる――。
いわゆる“名ばかり管理職”の存在が大きな社会問題として取り上げられたのは、今から4年前の2008年のこと。マクドナルドやセブン―イレブン、ロイヤルホストなど小売り・飲食チェーンで働く店長が会社を相手取り、次々と未払い残業代請求訴訟を起こしたことに端を発する。
いずれも会社側の敗訴や、残業代支払いを約束させられた上での和解が成立。以後、改善のための行政指導(通達)が出されるほど、“サービス残業”には徹底した取り締まりがなされている。
どうして労使間でこのような訴訟沙汰が相次いだのか。人事問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
「労働基準法で定められている『管理監督者』には法定労働時間の枠がなく、何時間働いても時間外労働とは見なされません。でも、それはあくまで会社の経営方針に参画し、勤務時間について規制を受けない『管理職』の話であって、コンビニの店長や一般企業の課長クラスは該当しないのでは? とグレーゾーンになっていたんです」
しかし、「店長は管理監督者ではない」との判例が続いている以上、企業側も渋々と“表向き”の対策を取っている。
人事・労務の民間シンクタンクである産労総合研究所の調査(2012年10月11日発表)によると、回答企業の6割弱が「管理職の人事・処遇制度の見直し」や「非管理職に該当する者への残業代支給」を実施済みだという。
「それでも名ばかり管理職は減っていませんよ」と、前出の溝上氏が続ける。
「景気が回復しない中、人件費の削減は会社にとっても至上命題。とにかく就業時間内で効率を上げるように管理職を酷使したり、残業代は払うけれども基本給のベースを落としたりと、これまで通りの賃金で訴えられないような防衛策を取っているに過ぎません」
2011年以降も、蛇の目ミシン、SHOP99(コンビニ)、ケンタッキーのFC加盟社といった会社の従業員だけでなく、弁護士が法テラス(独立行政法人・日本司法支援センター)に残業代支払いを求める訴訟まで起こっており、この問題は一向に収まる気配がない。
さらに、会社を訴えたくても現職のままでは勇気が持てずに我慢して働き続けてしまう名ばかり管理職が、いまだに数多く埋もれているという。
「そのまま放置すれば、うつ病になったり、過労死したりするケースも増えてくるでしょう。過労死のほとんどが規定の残業時間を大幅に超えているケースですし、そんな実態が明るみになれば、会社のイメージダウンは計り知れず、残業代の支払いだけでは済みませんよ」(溝上氏)
労働市場は厳しさを増す一方だが、労働者は自らの権利もしっかり主張しなければ、会社に守られるどころか、ツブされてしまうということを肝に銘じたい。