首相官邸を見下ろす記者クラブ利権の象徴、国会記者会館が揺らいでいる。「国政取材の前線基地」である会館の使用をめぐって、記者クラブが提訴される事態になっていた。
毎週金曜日に行なわれる「脱原発」官邸前デモの絶好の取材ポイントで“事件”が起きている。
さる9月24日、非営利のインターネット放送局「Our Planet-TV」は、国会記者会館を運営する新聞・テレビなどからなる記者クラブ「国会記者会」を相手に、損害賠償を求め東京地裁に提訴した。
訴えによると、7月に同放送局がデモを上空から撮影するため、官邸前にある国会記者会館の屋上の使用許可を2度申し入れたが、記者会は加盟社ではないことを理由に認めなかった。同放送局の白石草・代表理事は申し入れの際、国会記者会の事務局長にこんなことをいわれたと明かす。
「断わるにあたり、『国会記者会には120年の既得権がある』といっていました。自分はかつて大手メディアのスタッフとして会館を使用していたと話すと、『今は身分が違う』とネットメディアに対する嫌悪感を露骨に示されました。『屋上を使いたいなら記者会に入ればいい。でなければ借りるか。でも高いよ』ともいっていた」
国会記者会は、衆議院からの委託を受けたという大義名分で、記者会館を無償で独占使用し続けてきた。会館が「記者クラブ利権の象徴」と呼ばれる所以である。
ジャーナリストの佐々木奎一氏が本誌2010年8月13日号で調べたところ、地上4階・地下2階建て会館の賃料に駐車場の料金を試算すると合計で年間8億円超の便宜供与が記者会に行なわれていることが判明した。空調設備や電気設備といった金額の大きい工事についても、衆議院が税金で負担している。
さらに今回、白石氏が調べたところ、事務局長のいうとおり記者会未加盟の2団体(日本専門新聞協会と国会記者倶楽部)が事務局に賃料を払って会館を使用していることも判明した。自分たちは無償で使っているにもかかわらず、カネを取って“又貸し”していたのだ。
そもそも、「非加盟社には国会記者会館を使わせない」という根拠自体が怪しい。衆議院が国会記者会に対し使用を許可した覚え書きである「国会記者事務所の使用について」の第8条には、こう記載されている。
〈国会記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは、使用できるものとし、この場合においても国会記者会が運営管理に当るものとする〉
1969年の会館建設当初から非加盟社の使用も想定されていたのである。改めて、なぜ屋上使用を認めなかったのか。記者会に問うた。
「反原発大集会が開かれ騒然とした雰囲気になる時間帯であり、取材者の安全や近隣の公的機関との信頼関係に影響を及ぼす恐れがあるため許可できないと考えた」(常任幹事会)
前出の白石氏とのやり取りについて事実かと問うと、「それについてはお答えしません」の一点張りだった。
記者クラブメディアがまともに官邸前デモを取り上げようとしなかったのは、利権を守るのに手一杯だったからではないだろうか。
※週刊ポスト2012年10月26日号