ヨーロッパでは「映画界の巨匠」として知らぬ者はない北野武・監督。新作『アウトレイジ ビヨンド』も好評だ。もちろん日本では芸人・ビートたけしとしてずっと以前から国民的人気者だ。そのたけし氏が生活保護の不正受給問題などが噴出する現代日本社会への思いを語る。
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デモで日本車をぶっ壊したり、デパートに押し入って商品を盗んだりしている中国人たちを「レベルが低い」「下品でしょうがねえ」と見下している日本人は多いよね。
だけど本当に笑っていられるか、オイラはわからないと思う。昔はあった「品格」みたいなもんが、この国でもどんどんなくなってるからね。
街を歩いてみれば、みんな「みっともないこと」を平気な顔でやらかしてるよな。
たとえば、最新ケータイを手に入れるために徹夜したり、有名なラーメン屋に1時間以上も行列したり……。今じゃ当たり前の光景だけど、昔の日本の常識じゃ、これは「みっともないこと」だった。
安いものに飛びつくのだって、昔はどんなに貧乏でも、周りから「あの家、安い店に乗り換えやがった」なんていわれるのが嫌で、少々高くても近所のなじみの店で買ったわけだよ。それがこの頃じゃ、老若男女問わず10円でも安い店に群がる。
オイラの母ちゃんは、食い物屋に並んだりするのが大嫌いでね。「いくら安くたって、いくら旨くたって、並ばなきゃ食えないなら食うな」って言われたよ。「もってけ泥棒、みたいなものを買って得したっていう根性が気にくわない」って叱られたこともある。貧乏だったけど、「自分たちはカネのために生きてるわけじゃない」って誇りみたいなもんが確かにあったんだ。
もちろんあの頃だって、本音では安い方がありがたかったに決まってる。だけど、やせ我慢してでも「精神までは落ちぶれない」って踏みとどまろうとしていたんだね。
ところがいまや、みんな貧しさや格差に開き直っちまってるよな。生活保護の不正受給なんて最たるもんだよ。
どうやったって生きていけないって人のためには重要な制度だと思うけど、「できれば受けたくない」「人様の世話になりたくない」って気持ちが失われてしまえば、あとは「もらえるものはもらっとけ」って話になっちまう。
※SAPIO2012年11月号