本誌が2か月前にスクープした震災復興予算の流用問題が大騒ぎになっている。9月9日のNHKスペシャルが「追跡 復興予算19兆円」と題して報じると、朝日、毎日、読売など各紙や民放各局が10月に入って一斉に批判報道を展開した。
総額19兆円の復興予算が、東京の税務署改修や北海道・沖縄の道路建設、果ては捕鯨反対運動への対策費まで復興とは関係のない事業に役人によって流用されている。
しかし、大メディアと国会は、本誌が8月はじめにこの事実を報じてから2か月以上、頬被りを決め込んでいたのだ。その背景には、復興予算に、総額30億円超にのぼる政府公報予算つまり「新聞・テレビへの口止め料」が含まれていることがある。
新聞各社にとっても「政府広報予算」はおいしい。
本誌5月18日号でジャーナリストの佐々木奎一氏と本誌取材班は内閣府の政府広報をはじめ全省庁が2年間(2009~2010年)に使った新聞・テレビなどへの広告料が総額155億円にのぼることを明らかにした。
佐々木氏の協力のもと昨年分について改めて調査すると、その予算が震災関連広告に振り向けられていた。
最初の震災広告は昨年4月29日、読売、朝日、日経に掲載された〈復興アクションで応援しよう。〉という全面広告。「東北の花見で応援しよう」「省エネ家電で応援しよう」などと呼びかける内容だが、政府が払った広告料はこの1回だけで3紙分合計4600万円に達する。税金の無駄遣い以外の何ものでもない。
続いて防災の日の前日(8月30日)に読売、朝日など全国紙や各地方紙に掲載された「減災特集」の記事広告が興味深い。
政府が震災復興にあたって立ち上げた「東日本大震災復興構想会議」の委員には、“メディア界代表”として読売から橋本五郎・特別編集委員、朝日は元論説委員の高成田享・仙台大学教授が就任していたが、この日の減災政府広告には、読売は橋本氏、朝日は高成田氏を登場させて「減災」について語らせる記事広告となっている。
まるで広告をもらうために構想会議に送り込んだのかと見紛うばかりなのだ。
ちなみに減災広告の広告料は総額2億4641万円だった。これらは一般会計からの拠出だが、「震災復興」を口実としていることに変わりはない。
復興構想会議は提言をまとめた後、昨年11月の13回会議で廃止されたが、読売の橋本氏は最後の会議で、「提言の最後にも、政府がどうやっているのかを厳しく監視すべきであると入れている。その監視機能をちゃんとやってきたのかを私は非常に疑問に思っている」と発言した。
しかし当の読売は、本誌が事業のひとつひとつを裏付け取材して報じるまで、そうした検証取材さえしなかった。政府にとって大メディアから委員を出させたのは、チェックさせないための人質だったわけである。
※週刊ポスト2012年10月26日号