今年の夏は参加者15万人とも報じられた官邸デモが大きな盛り上がりを見せた。その様子は新聞、テレビでもたびたび報じられたが、その報道が激減した現在、デモはどうなっているのか。
9月14日、21日の金曜夜に行なわれた官邸デモに行ってみると、スマホ片手にシュプレヒコールを上げる光景は相変わらずだったが、熱気が最高潮に達した夏に比べると、ずいぶんと参加者が少ない。夏にはよく見られた小さな子供の手を引いた若い母親の姿も少ない。デモの中心メンバーが陣取る「総理官邸前」交差点周辺の歩道はほぼ参加者で埋まっていたが、官邸周辺の他の場所は意外なほど閑散としていた。
9月19日に原子力規制委員会が発足し、その委員長に「原子力ムラ」の中心人物のひとりと批判される人物が就任するという重大な決定が下された時期だったのだが、間違いなく“ブーム”のピークを越えたようだ。
左翼事情に詳しいジャーナリストの野村旗守氏が話す。
「結局、これが“気分としての反体制”の弱さなのです。旧来左翼の場合、街頭でのビラ配り、アンケート取りといった下積みを何年も続け、ようやく機関紙に文章を書かせてもらえるようになる、といった一種の徒弟制度があります。
ところが、このSNS時代においては、誰もが簡単に世の中に向けて自分の意見を発表することができる。実際にどの程度読んでもらえるかはともかく、満足感は得やすい。そのため、大した思想的な背景がなくても、気分だけで簡単に脱原発運動に参加できるのです。しかし、参加の敷居が低い分、熱が冷めるのも早いようです」
夏の時点では、子供を連れて家族で官邸デモに参加するほか、「是非、参加して下さい」とフェイスブックで友人たちに熱心に呼び掛ける人が多くいた。ところが、その後はぱったりとデモに参加しなくなったばかりか、原発について発言することもなくなったという人も少なくない。
あるITジャーナリストが話す。
「3.11以降、自分の善意や正義を見せなければならないという空気が広まった時、ブログやツイッターやフェイスブックに官邸デモに参加した写真をアップしておけば、“脱原発な自分”“エネルギーや環境について考えている自分”“社会問題に関心を持ち、行動もする自分”“いざという時には政府に抗議もする自分”という美談を作り上げることができた。そういう自分の姿に酔っていた人も多いのではないでしょうか」
官邸デモに参加し、それをSNSに記録しておくことは、流行りの言葉でいえば、一種のセルフブランディング(自分自身のブランド化)だと言えるのかもしれない。
※SAPIO2012年11月号