中国における反日の動きは今後の両国間の経済にどのような動きをもたらすのか。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏が解説する。
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中国経済の失速が目立ってきた。
日本のメディアが一斉にこう報じたのは10月18日のことである。そのきっかけとなったのが、中国の国家統計局が公表した7月から9月までのGDP(国内総生産)の伸びが振るわなかったことだ。この期間の対前年比のGDPの伸びは7・4%の増加と8%を下回った。これで7四半期連続対前年比でマイナスを記録したことになる。
同時に報道されたのは対ASEAN投資が拡大していることだったが、こちらは多少ご愛嬌だ。というのも小見出しに「中国リスクから分散」とあり、まるで今夏の反日デモと暴動を受けて日本の資本が中国から逃げているような報じ方なのだが、数字は4月から6月の実績だから本来は反日問題とはまったく関係ない変化と見るべきである。
この問題の本質は、実は反日とは関係ないところで起きた事実こそが中国にとって深刻だという点にある。
理由は言うまでもないことだが、反日であれば「政治的要因」を上手く取り除くことができれば改善の余地があるからだ。だが、こうした変化はいまやもう少し根本的な部分で起きていると考えられる。
このことはGDPが振るわない問題とも通じてくる話なのだが、要するに安い労働力という外資の好物をそろえておけば自動的に経済成長できるという青春時代が幕を閉じ、逆行できない老化が始まったことを意味している。今年3月の全国人民代表大会で中国が盛んに「経済の構造転換」を強調していたのはこのためだ。
重要なことはGDPがどうであるということではない。中国に対する数字の信頼性という根本的な問題もあるが、それを除いても中国がその気になれば数字を挙げることはできるからだ。それよりも大切な視点は、これで中国は再び財政出動による経済刺激策を打たざるを得なくなるということが見えてきたことだ。
GDPの数字が発表される少し前、中国は消費者物価指数に関する統計を発表しているのだが、その結果はCPI(消費者物価指数)が1・9%でPPI(生産者物価指数)がマイナス39%となった。これは一時期中国政府を悩ませていたインフレが落ち着いたことを意味している。つまり、大きな財政出動をするには良い環境が整いつつあるということだ。
中国にとってこの財政出動は本来ならば慎重にしなければならない。なぜなら、公共事業には格差を拡大するという副作用がともなうからだ。だが日本にとって意識すべきは、それでもやらなければならないという事情のなかで打たれる公共事業から、日本企業だけが徹底的に排除される可能性があることである。
日本経済にとって中国のGDP低下は決して朗報ではない。その上、中国が副作用覚悟で吐き出す財政の恩恵にもあずかれないとなれば、冬の寒風がさらに厳しく感じられることだろう。