山中伸弥教授のノーベル賞受賞を吹き飛ばした森口尚史氏にまつわる「世紀の誤報」騒動。経歴、資格、研究内容……、すべて「ちょっと調べれば分かる」レベルのデマカセだらけだったのに、大新聞の専門記者がコロリとダマされてしまったのだ。
この世紀の大誤報は、いつの間にか大新聞同士の醜い争いに発展している。
読売の大失策を見て、ここぞとばかりに叩いたのは朝日だ。10月13日付夕刊の〈読売新聞「肩書確認せぬまま」共同通信「速報重視のあまり」iPS誤報〉との見出しが付けられた記事では、〈(朝日は)森口氏に取材していたが、信頼性が低いと判断し、記事化を見送っている〉と自慢げに書き、大石泰彦・青山学院大教授の「研究者の肩書はもちろん、学会での評価を確認するのは当たり前のことだ」という言葉で、取材の詰めが甘かったことを指摘している。
朝日新聞系列のテレビ朝日も、この件については援護射撃かのように報道を繰り返した。
当の読売新聞は、誤報の検証記事として、〈森口氏の記事 本紙6本掲載〉(10月14日付)を掲載し、2006年2月から2012年7月までに載せた森口氏の記事のうち5本で「米ハーバード大」という詐称の肩書きを鵜呑みにしていたことを認めている。
こういった真摯な検証は当然行なわれるべきだが、この記事からは別の狙いが見てとれる。その後、日経が8本、毎日が5本、朝日が2本と、森口氏発の科学記事を各紙がいくつ掲載していたか、をわざわざ説明しているのである。
この3紙はいずれも今回の森口氏のiPS臨床応用に関する報道を見送り、読売を誤報と断じた「勝ち組」である。「誤報はうちだけじゃない」と言い逃れをしているようにしか見えない。
誤報の検証とはあくまで表向きで、その内実は大新聞同士の争いに過ぎないのではないか。
※週刊ポスト2012年11月2日号