〈ファーウェイは、中国国家から影響を受け、中国情報機関に対し通信ネットワークへのアクセスを提供している。さらに、サイバースパイ活動の主犯である情報機関に経済スパイ活動及び敵対スパイ活動の機会を与えている〉(以下、〈〉内は報告書からの抜粋)
そんな衝撃的な内容の報告書が、さる10月8日、アメリカ下院議会の情報特別委員会によって公表された。報告書の中で〈アメリカの国家安全保障にとって脅威である〉と名指しされたのは、中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)である。
そもそも同社は、創業者が人民解放軍出身であることから、同社の機器を通じて情報が中国政府にわたるのではないかという懸念があり、実質的にアメリカの市場から締め出されてきた。
そうした疑惑を検証するため、特別委員会による調査は1年ほど前から進められてきた。議会の公聴会にファーウェイ社の幹部らが呼ばれたり、調査チームが現社員や元社員にインタビューを重ねるなど、徹底した調査が進められ、その結果が報告書としてまとめられたのだ。
報告書では、まずはファーウェイと中国共産党との強い結びつきが指摘されている。ファーウェイ側は「中国共産党と特別な関係はない」と説明しているが、特別委員会の調査ではこんな実態が明らかになった。
〈ファーウェイは調査に対して社内に共産党委員会を設置していると認めた〉
アメリカが恐れているのは、ファーウェイが中国政府の言いなりになって、米国内の情報を渡してしまうのではないかということだった。社内に共産党委員会(*注)が存在することがはっきりしたことで、いざ米中で有事となった時には、ファーウェイが中国政府の手先となって情報収集をしたり、サイバー攻撃の“武器”になったりするのではないかという懸念が強まったのだ。
そもそもファーウェイが危険視されたのは、創業者である任正非氏の経歴が理由だった。
〈任正非氏は人民解放軍で通信、信号などを媒介として諜報活動を担う情報工学校の高官だった〉
そして退役後、国営企業に勤務するが退職し、1987年に将校仲間とともにファーウェイを設立したという。
なぜ任氏は国営企業を去ったのか。その際、中国政府との縁は切れているのか。現在も人民解放軍の指揮下にあるのではないか─―その点こそ、アメリカがファーウェイについて最も知りたい点だったため、今回は徹底的に調査された。しかし結局は、同社の幹部に証言を拒まれ、まだ任氏のキャリアについては不明点が多く残されたままだという。
在中国アメリカ大使館公使を務めたこともある元国務次官補代理のドナルド・カイザー氏が補足する。
「任氏は元々、中国人民解放軍のエンジニアでした。とくにサイバー攻撃を仕掛けている解放軍の総参謀部第三部などとの結びつきが疑われています」
決定的だったのは、委員会がファーウェイの元社員から入手した重要な資料の存在だ。
〈ファーウェイは特殊なネットワーク・サービスを中国人民解放軍に提供している。元社員によれば、このサービスは中国人民解放軍のエリートサイバー部隊が使用しているという。この事実を示す内部資料は同社の公式な資料であり、信憑性が高い〉などとし、実際にファーウェイがスパイ活動に加担しているとする。
実は、この報告書には公表された部分だけではなく、国家の安全保障に関わるとして非公開にされた機密性の高い添付文書も存在する。報告書の発表記者会見でマイク・ロジャース委員長は、ファーウェイの通信機器が真夜中に勝手に作動して、大量のデータを中国に送信しているフシがあると指摘し、「異常なことだ。不正が疑われる」と発言したが、このような内容が非公開部分に記されていると推測される。
【*注】共産党委員会/中国では会社法などにより、企業内に中国共産党組織を設置することが勧められている。ファーウェイ経営側と委員会の関係について、米下院は調査をしたが〈正確な役割について具体的な情報提供がなかった〉とし、共産党委員会が会社に対しどのような権限を持つのかは明らかにされていない。
※週刊ポスト2012年11月2日号