民家から3体の遺体が発見され、行方不明者が8人に上る尼崎連続怪死事件。今年6月から始まったドラム缶事件の公判資料から浮かぶ大江和子さんの姿はあまりに悲惨である。
2011年6月下旬から死ぬ直前の11月中旬、和子さんは尼崎市内のマンションに監禁されていた。食事の回数が制限され、水分も与えられない。飲み水は1日当たり約500ミリリットル。トイレの使用回数も1日2回以下という。就寝時間は限りなく少なく起床時間も決められている。時折、長時間立ったままの姿勢でいることも強要された。
それらの凶行を行なった実行役は実の娘である長女・大江香愛被告(ドラム缶事件で起訴)と次女・裕美被告(同)、そして次女の元夫の川村博之被告(同)だった。
和子さんの素行に問題があると判断されれば、顔や頭部を平手や新聞紙を丸めた棒での暴行も辞さない。頭部を足で踏みつけ、背中を足蹴にするなどの暴行も行なわれた。娘が親に残虐の限りを尽くす。その「修羅」を後ろでじっと眺めていたのは他ならぬ角田被告である。
和子さんは死ぬ直前、こういうのが精一杯だった。
「もう死にたい、殺して」
そして和子さんはこの世を去った。角田被告らは遺体を腐らせないよう数日間、アパート内の氷が敷かれた浴槽に安置したという。捜査関係者の話。
「角田被告のマインドコントロールは巧みです。母親が虐待される前に暴行の対象となっていたのは次女の裕美被告です。まず角田被告が裕美被告を殴る。そして周囲で見ている長女の香愛被告や元夫の川村被告にこう声をあげるんですよ。『なんで身内のあんたらが殴らんのや』。その声に触発されるように長女や元夫は次女に手をあげた。みんな自分が虐待の対象になるのが怖かったんでしょう」
実際、母親の和子さんが亡くなった後は虐待の対象は香愛被告に向かった。10月下旬、母親を殺めてしまったことで自責の念にかられた香愛被告を角田被告は徹底的にいたぶった。次女の元夫の川村被告に命じて香愛被告の顔を何度も殴打させ、その左瞼に火のついた煙草を押しつける。さらに角田被告の自宅の目の前のワンルームマンションの一室に閉じ込め、川村被告に監視させた。
「香愛被告は暗証番号付きの内鍵を部屋にかけられた上に、両手首を粘着テープで巻かれて監禁された。数日前まで肉親殺しの加害者だったのに今度は被害者になってしまう」(同)
結局、香愛被告は川村被告が寝ている隙をつき、2階の窓から脱出。尼崎から逃れて大阪市北区の交番に駆け込んだ。そこで「妹夫婦がトラブルになって母親が死んだ」と語ったことで事件は初めて明るみに出た。
※週刊ポスト2012年11月2日号