緊張続く日韓関係の中で、日本担当の韓国人記者は何を考え、伝えているのか。長く日本報道に携わるベテランの韓国人記者に、現在の日本を取材して感じることを聞いた。(取材・構成=フリーライター神田憲行)
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私が初めて日本語を勉強したとき、韓国人の女の先生は最初の授業でちょっと皮肉混じりの笑顔を浮かべてこういいました。
「みなさんが日本語に興味があって選択したわけではないことを私は知っています。でも最初の1時間だけ、真面目な話をさせてください」
「みなさんは知らないと思いますが、韓国と日本は複雑で難しい関係があります。言葉を学ぶということは単語を暗記するだけでなく、その国の立場、主張を学ぶことでもあります。みなさんが日本語を学んで、日本の立場を理解するようになって、韓国と日本の複雑で難しい問題を解決するような人になって欲しいと、私は願っています」
私、それを聞いてとても興奮したんですね。韓国と日本の難しい問題なんて知らなかったから、「よし、だったら自分の力で解決してやるぞ」って。日本人は「韓国人はみんな反日教育を受けている」と思い込んでいますが、私は反日教育なんて受けたことがありません。私が受けたのはこういう教育です。
「3.11」は日本と日本人について気づかされることが多かった。地震直後に被災地取材のためにすぐ現地に入ったのですが、乗ったタクシーの運転手さんが被災地の惨状に泣きながら運転していました。途中で自衛隊に通行止めをされたんですが、運転手さんが、
「この人は韓国の新聞記者なんだ。取材して韓国の人にも知らせないといけないんだ」
と、一生懸命説明して、通してもらえました。
原発事故では都内の馴染みのお寿司屋さんにいて、大将に「大阪まで逃げませんか。人を紹介しますよ」と言ったら、微笑みながら、
「私が逃げたら常連さんたちがみんな不安になるでしょう。私ができることはこういう状態の中でも店を開けることなんです。なにかあればここで死ぬのが私の役目です」
そのとき初めて、私は「日本人の哀しみ」のようなものがわかったんです。今まで私からすれば日本は「ラッキーなお坊ちゃんの国」。侵略の恐れも何もない。でも日本人はいくら自然災害があろとうともその地に住むしかない。日本の不運を見て喜んでいるのとは全然違います。日本人の哀しみ、悩む日本人の姿を見て、初めて素顔に触れた気がするんです。私自身は親日でも反日でもありません。むしろ親日と反日の気持ちが1日のなかでコロコロ変わる(笑)でも「3.11」の取材を通してこの国への興味はもっと強くなりました。これからも「ジャパン・ウオッチャー」として仕事をしていきたいと思います。