スパイス売り場の棚に「眠って」いた商品が、ひょんなことから15倍の売り上げを達成することに――。世の中にはきっかけさえ掴めば、ヒット商品に化ける素材が身近にある。
ご飯にかけるふりかけは数あれど、今まであるようでなかったのが“パンにかけるふりかけ”だ。開発したのは、ハウス食品。2012年2月に発売した『トーストシーズニング』はパンにふりかけるという斬新さが受けた。
ハウス食品といえば、『バーモントカレー』『ジャワカレー』などのカレールウのほか、『ウコンの力』などのドリンクから『とんがりコーン』などのスナックまで幅広く食品事業を展開しているが、“パンのふりかけ”を生み出したのは香辛食品事業部。
主力商品は、『ギャバン』のブランドで知られるペッパー類。シナモンにグラニュー糖をブレンドした「シナモンシュガー」も取り扱い商品のひとつだった。トーストに合い、新しいパンの風味が味わえると市場に提案を試みたが、期待したほど売り上げは伸びなかった。香辛食品事業部のブランドプランナー・橋詰弘基(31)が振り返る。
「陳列する棚はあくまでもスパイス売り場に限られていました。スパイスは料理によって非常に多くの商品が揃うにもかかわらず、一般家庭では頻繁に消耗するものではありませんから、売り場の中に埋もれがちな商品でした」
そのため“スパイスからヒット商品は難しい”というのが業界の常識だった。
だが、名古屋支店の営業担当の一人がその壁に果敢に挑んだ。2010年8月のことだ。担当者は地元の名古屋のスーパーとの粘り強い交渉の末、「パンにかけましょう」というPOPとともに、「シナモンシュガー」をパン売り場に陳列することに成功したのだ。
パン売り場におかれた「シナモンシュガー」は、スーパーの担当者を驚かせる15倍増という驚異的な売り上げを記録した。
その成功譚を社内イントラネットで知った橋詰は、大きなビジネスチャンスが到来したことを感じた。橋詰は全国の小売店で、同様の仕掛けをすることを指示。すると、どの小売店でも売り上げが“異常値”を記録した。
「私たちは、シナモンはトーストに合うと感じていたが、お客様には伝わっていなかった。いや、お客様にちゃんと提案できていなかった。ヒットの鍵は“売り場提案”にあったのです」
※週刊ポスト2012年11月2日号