ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。その鎌田氏が、自殺者が15年ぶりに3万人を切る可能性が出てきた背景について解説する。
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日本では14年間、年間3万人を超す自殺者が出ている。僕も自殺予防の講演を頼まれ、「生きているって素晴らしい」というタイトルで幾度も話をしているのだが、自殺を減らすのは、非常に難しいと感じていた。
ところが、驚いたことに、最近自殺が減りだしているのだ。僕は、一般社団法人社会的包摂サポートセンター『よりそいホットライン』の評価委員を務めているのだが、そこでその事実を知った。
『よりそいホットライン』というのは、24時間どこからでも無料で、どんな相談でも受け付けている相談窓口で、多い日には1日4万件のアクセスがある。昨年の10月に、岩手、宮城、福島の被災地3県の心をサポートしようという国の支援で始まり、今年の3月から全国エリアへと拡大された。研修を受けた相談員1300人と弁護士や医師など専門スタッフも関わっている。
データによれば、毎月500人前後減り始めている。このままいけば、15年ぶりに、今年は3万人を切る可能性が出てきた。
自殺者が減少しているのは、なぜなのだろう?
2008年、麻生政権の時代に、地域自殺対策緊急強化基金が作られ、3年間で100億円を投入し、それを活用した事業が全国で展開されるようになった。以前、僕の講演会でも、会場のロビーに弁護士、保健師、ハローワークの職員や社会福祉事務所の職員がやって来て、ワンストップ型の相談会を開催していた。この費用が基金から捻出されていたのである。
NPO法人『自殺対策支援センター ライフリンク』の代表、清水康之さんにも聞いてみた。『ライフリンク』は足立区と連携して、ワンストップ型の総合相談会を開催してきた。すると、昨年は、一昨年に比べて自殺が20%も減ったのだという。
「相談会に駆け込めば、どんな相談にものってくれるという受け皿を作って、それを徹底したことが良かったのだと思います。問題を抱えて孤立していた人たちが、問題解決の道を見つけ、生きるという道を選択できたのでしょう」
『よりそいホットライン』でも、複数で多様な悩みにこたえようとしている。電話相談だけではなく、同行支援といって、現場に飛んでいき支援している。やっと、一人ひとりに対して、キメの細かい対応ができるようになってきたのである。
※週刊ポスト2012年11月9日号