うつ病は誰でもかかる可能性がある以上、身近な人が「うつ」の症状に悩まされることは十分起こり得ることだろう。そんな時、あなたはその人にどんな言葉をかけるべきなのか。いざというとき、心を乱さず対応するために知っておくべきことは多い。うつ病は外見から判断しづらく、周囲にとっては非常に発見しにくい病気だ。とくに初期のうつは、本人すら自覚していないケースも多く、職場の上司や同僚が気付いてあげることは難しい。
しかも、うつ病にかかりやすいタイプはマジメな人が多いとされている。彼らは不眠や疲労、不安、ストレスなどに悩んでいることを自分から口にしないから、余計に発見や対処が遅れてしまうのだ。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授の碓井真史氏は語る。
「だからこそ、上司は部下の言動の変化などに敏感になってもらいたい。何となく元気がない、様子がおかしいという部下がいて、その状態が2週間も続くようなら、さり気なく声をかけてあげてください」
うつ病は適切な治療さえ受ければ、高い確率で良化し、現場復帰できる。そのためにも、なるべく早い段階で医師の診断を受けるのがベストだ。この際にポイントとなるのが、命令口調で、「病院でみてもらえ」と切りこまないこと。最初に「会社にとって君は必要な人材」という点を明確にしてあげるべきだという。
「うつ病がバレたら、クビになるんじゃないかという懸念はつきもの。上司はまず、この心配を払拭してあげるべきです」(碓井氏)
仕事のミス、遅刻や欠勤が目立つようになれば、なおさら本人は落ち込み、病状も悪化していく。
「うつ病の部下は、一見サボっているようにしか見えない。だけど、病気の本人がそのことを誰よりも自覚し、つらく感じていることを理解して対処してください」(碓井氏)
部下から病状に関する相談を受けた場合は、とにかく聞き役に徹するべきなのだという。相手が沈黙すればそれに付きあい、泣いた場合はきちんと受け止めてあげる。そうすることで、部下は上司を味方だと認めるようになる。
「治療を受け症状が改善したら、元の前向きな部下に戻るんです。大変かもしれませんが、根気よく、向き合うことが必要です」(碓井氏)
反対に「情けないことをいうな」「がんばれ」「大丈夫だ」といった言葉はやはり禁句のようだ。
「叱咤したり、激励を飛ばしてしまうと、『オレはダメ人間なんだ』とか『死にたい』、『会社を辞めたい』、挙句の果てに『あなたになんか、わかるはずがない』などとネガティブな反応をされてしまいます」(碓井氏)
そうなれば、上司とて人の子。ついキレたり説教をしてしまって、せっかくの治療のチャンスを潰してしまうことにもなりかねない。もっとも、「がんばれ」が効果を生むケースもあるというのは、早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏だ。
「激励が禁句というのは、相手との間に信頼関係のない場合のこと。確固とした信頼関係があり、相手のつらい気持ちをくみとった後でなら、うつ病患者は『がんばれ』や『しっかりしろ』を素直に受け入れます」
最良の対応ができるよう、日頃から部下を気に掛け信頼関係を築いておくことが大切だ。
※週刊ポスト2012年11月9日号