雪国の冬は長い。例年12月から2月まで道路は根雪に覆われ、アイスバーンになることも珍しくない。
それでもクルマが滞りなく走行できるのは、スタッドレスタイヤの性能に負うところが大きい。そのスタッドレスタイヤで、北海道や北東北の主要都市で約50%(タクシーでは約70%!)という圧倒的なシェアを獲得しているのが、ブリヂストンの『ブリザック』だ。
圧雪の路上での運転は、ブレーキのタイミングなど、夏とは異なる技術が必要だ。『ブリザック』は、氷上でも夏と変わらない性能を目指して、品質を向上させてきた。その結果が前出のシェアなのだが、開発担当者渡部亮一(消費財商品企画第1部)らは決して満足していない。
「氷上では優れた性能を発揮しますが、雪や氷のない乾燥した道や濡れた路面では、夏タイヤに比べグリップ力が低いという課題があったのです」
目標とする性能は氷上、ウェットともにブレーキ性能を10%以上向上させること。誰もが性能向上を実感するために2桁アップは譲れない。自分たちのプライドとの闘いでもあった。
渡部らは、走行するタイヤのサーモグラフィー撮影という、従来取り組んだことのない作業に挑んだ。熱を感知し、熱の高い部分を色分けして示してくれるサーモグラフィーで、タイヤのどの部分に負荷がかかり、グリップしているのかを明確にしたかったのだ。
この効果は歴然だった。加速、カーブ、ブレーキ、それぞれの状態で機能する部分が明らかになった。このデータを元に、効率よく性能を発揮できる溝を彫った。試作品は手作りだ。柔らかなゴムに職人が手作業で溝を彫り続ける。1本の試作に要する時間は約4日。16日間かけて、クルマ1台分の試作タイヤを作り、試乗した。すると、雪上、そしてウェットの走行性能が格段に向上したことがわかった。
こうして開発された『ブリザック REVO GZ』は、時速30キロメートルからの氷上制動距離は、従来モデルは、27.3メートルだったのに対し24.4メートルとブレーキ性能が12%も向上した。
※週刊ポスト2012年11月9日号