2012年3月期決算で過去最大の赤字を計上し、本社人員の削減に踏み切るなど、追い込まれたパナソニック。同社にとっては海外進出の遅れも弱みになっている。
一方で韓国メーカーは、2000年以降に徹底したマーケティングで頭角を現わした。世界的に有名なサムスンの「地域専門家制度」は、若手社員を世界各地に派遣するシステムである。1年間、会社の仕事はせずに言語を習得して人脈を作り、ひたすら国と地域に溶け込み生活する。生活の中から現地のニーズを探り、新商品開発のアイデアにつなげる。その中で生まれたヒット商品はいくつもある。
例えば、インドの富裕層向け冷蔵庫には鍵がついている。メイドの“つまみ食い”を防ぐためだ。中国の中産階級向け洗濯機や冷蔵庫は、ド派手なデザインを採用している。自宅に人を呼び、家電を自慢する習慣があるのを現地で生活していた若手が見抜いたためだった。リビングに洗濯機が堂々と置かれていたという。
さらに、中東向け携帯電話にはコンパスをつけた。メッカの方向がどこにいてもわかるため、1日5回礼拝をするイスラム教徒にとっては便利である。
パナソニックの製品は、モーターもコンプレッサーも高性能かもしれない。高級品には最新の機能がついている。だが、サムスンに比べれば、日本にいる開発チームとの乖離もあって、現場のニーズに応えきれていない。海外でのマーケティング力の差が商品力の差となって表われてしまった格好だ。
経営コンサルタントの大澤智は、こう指摘する。「サムスングループなどの韓国企業は、設備投資にブレがない。業績とは関係なく、長期的な視点から毎年同じ程度の金額で投資する。これは、インテルをモデルにしていると考えられる。逆に、シャープの堺工場(液晶)、パナソニックの尼崎工場(プラズマ)などは一気に投資して失敗してしまった」
グローバル市場の細やかな変化に対応して商品開発ができる設備投資が必要だというのだ。(本文中敬称略)
■永井隆(ジャーナリスト)と本誌取材班
※SAPIO2012年11月号