12月に迫ってきた韓国の大統領選挙。その有力候補2人が同じセミナーでそろって日本を非難した。その様子を産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏が報告する。
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ソウルに日中韓の政府(外交当局)による「3国協力事務局(TCS)」という組織がある。韓国主導で昨年9月、ソウルに開設された。韓国が事務局長を務め、その下に日中から1人ずつ参事官級の代表が派遣されている。
「東アジア共同体構想」と同じで「日中韓協力」の看板は美しいが、いざ具体的に何をやるかとなると安保や経済、さらには領土問題など難しい話は抜きというから、苦労している。
発足1周年ということで3国から識者が出席して記念の国際セミナーが開催された。セミナーはともかくとして、終了後のレセプションに関心が集まった。12月の大統領選へ向けて勢力争いがたけなわの時、有力候補の朴槿恵(パク・クネ/セヌリ党)と安哲秀(アン・チョルス/無所属)がやって来たからだ。
セミナーのスポンサーになった朝鮮日報が連れてきたのだ。大統領選は三つ巴だからもう1人有力候補の文在寅(ムンジェイン・民主党)がいるが、こちらは来なかった。盧武鉉(ノムヒョン)政権以来の朝鮮日報との対立関係から、出席を断わったようだ(文は盧大統領の秘書室長)。
朴と安は簡単なスピーチをしたが、ライバルとして様々な点で意見が異なる両者に、共通点が1つあった。「ヨーロッパでのドイツに学べ」という日本への注文である。
朴は3国協力による地域発展には歴史的和解が条件だとして「正しい歴史認識」を強調。ポーランドでのナチ犠牲者記念碑にひざまずいたブラント西独首相の話(1970年)を引用し「過去を忘れる者に未来はない」と語った。
またドイツの話かと思ったが、次にスピーチした安もヨーロッパを例に「ドイツの徹底した歴史への反省がドイツ自身の繁栄とヨーロッパの統合および平和の基礎になった」と述べている。いずれも日本を名指ししていないが、明らかに「日本が問題」といっているのだ。
ヨーロッパで歴史的、文化的に中国に相当するような国は存在しない。アジアで中国が経済力増大と軍事的膨張、領土拡張で帝国主義化しつつあるこの期に及んでも、韓国の次期指導者たちは、この地域の“問題児”は中国ではなく日本だというのだ。
※SAPIO2012年12月号