「iPad mini」を発表して世界的に話題を集めるアップルの快進撃が止まらない。だが、このまま成長を続けていくかといえば、大いに疑問である、と指摘するのは大前研一氏だ。以下は、大前氏の解説である。
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アップルは「アップストア(App Store)」に人気のアプリを多数そろえているから強い、という見方もあるだろう。だが、それも足元は危うい。Androidのアプリストアには、アップストアと同じアプリが続々と登場しているからだ。
それだけではない。電子書籍リーダー「キンドル」を販売しているアマゾンは、いつの間にかキンドルのアプリをアップストアからiPhone、iPad、iPod touchに無料でダウンロードできるようにした。
アマゾンは、自分は小売屋に徹してハードはアップルに“寄生”する道を選び、キンドルをiPadなどのアイコンの一つにしてしまったのである。ユーザーはiPad上の無料キンドルでアマゾンのキンドルストアから電子書籍を購読しているわけで、これだとアップルにはマージンが全く入らない。
アップルはアプリの売価の30%をマージンとして取っているが、「無料×0.3=無料」だからである。つまり、アップストアの優位性は「無料アプリ」によって簡単にアービトラージ(さや取り)されてしまうのだ。
こうして「絶対にアップル、iPhoneでなくてはいけない」という理由が徐々になくなってきている。あとは有料アプリに頼るか、広告モデルで稼ぐしかない。アップルはスマートテレビ事業への参入も噂されているが、スマートテレビもウィキペディアやユーチューブなどのような無料サービスが中心だ。
音楽のダウンロードでは味をしめたアップルだが、映画やテレビ番組ではオンラインDVDレンタル最大手のネットフリックス(Netflicks)に一日の長がある。おそらくネットフリックスはアマゾンと同じようにアップルに寄生して視聴用のソフトだけ無料で配り、あとは別途会費をもらって稼ぐだろう。これからアップルは収益を削られていく局面に入り、追い詰められていく可能性があるのだ。
しかもアップルに追い打ちをかけるように、携帯電話事業そのものが過渡期を迎えつつある。これまでアップルは、日本でいえばソフトバンクとauにiPhoneを高く大量に売りつけることで儲けてきたわけだが、そのモデルが崩壊する日が近づいているのである。
※週刊ポスト2012年11月18日号